予想通りの襲撃と予想外の来客

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「助けてやりたかった。あんたに似たあの娘を……俺は多分、あんたが心配だったんだ……」 「だからクローディアについて城まで来てしまったのか」  凄惨な話に、思わずエルキュールがクローディアの肩を抱き寄せた。  彼女もエルキュールの胸に縋った。 「あんたはそんな心配ないみたいだな。よかった。あの娘、可哀相なことしたな。俺は所詮ちっぽけな盗賊。人の富に群がるどうしようもない寄生虫なんだよ……」 「シッピー、聞かせてくれてありがとう。その娘さんは辛かったかもしれないけど、少なくとも霊になってさ迷っていないのはあの場にいなかったし確かだわ。きっと冥界に正しく行けて、シャンピー……私のお友達ね。彼が行ったみたいな綺麗な所に行けていると思うの。それが救いになるわけじゃないかもしれないけど、少なくとも死後に恐ろしい目には合ってないはずよ」 「そっか。俺みたいにさ迷ってたら益々可哀相だ。俺も、同じ場所に行けるかな」 「あなたにはもう見えていない? 冥界への道が」  いつの間にか黒いモヤはなくなっていた。  伯爵の体から白いモヤが抜け出て来ると、元のシッピーの姿になっていた。  悪霊となることは回避できたようだ。  そして死すべき理由も思い出した。  彼はもう旅立つ時だろう。 「ああ、あるな。あったかい……あの世ってのは春なんだな」 「その景色が見えているなら大丈夫。きっとあなたも、シャンピーみたいに綺麗な場所へ行けるの」 「そっか。俺生きてる時に捕まったら絶対縛り首なんだよ。あの世ってのは案外罪人に優しいんだな。俺でもあの娘と同じ場所に行けるなんて」 「世話になった。お前のお陰で俺の最愛の人を守ることが出来た」 「俺も、間接的にあの娘を守った気になってたよ。泣かないでくれクローディア。俺はあの街道であんたに出会えてよかった。俺はヴォルズ、もう行くよ」 「冥界がどんなところか私にはよく分からない。けど、その娘さんに会えたら素敵だね」 「ああ、そうだといいな。そうだ。コイツの内ポケット探してみなよ。じゃあクローディア、幸せにな」 「ヴォルズ、礼を言う」  シッピー改めヴォルズは、手を軽く上げると消えていった。  エルキュールが倒れた伯爵の内ポケットを探ると一枚の紙を見つけた。 「これは……念書だな。この作戦に加担した者の名が連ねてある。万が一見つかった場合、こうして死なばもろともと言うことだったんだろう」  気絶している伯爵は警備隊によって縛り上げられ、そのまま運ばれて行った。  そして広場は静寂に包まれる。  あの襲撃の余韻も今は嘘のように退いている。  クローディアとエルキュールが霊とやり取りしている最中、ずっと周囲を警戒していたルブラードたちも剣を鞘に収めた。  鞘鳴りの小さな音が観衆を現実に引き戻したのか、さざめく声があちらこちらから湧き始めた。
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