予想通りの襲撃と予想外の来客

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「あの姫は誰と話してたんだ」 「だが殿下もだぞ。お二人には何が見えてたんだ?」 「ほら、やっぱり死者と話せるのよ。不吉だわ」  皆クローディアを見て「やっぱり」と噂を肯定された気分になった。  可愛らしい姿をしてはいるが、それが返って人ならざる者と結び付いてまるで彼女まで不死者であるような目で見る。 「クローディア」 「いいの、だってフィルディですらそうだったんですもの。みんな死は怖いし、見えないものを不思議に思うのは仕方ないの……」 「よくない。君は何一つ悪いことなどしていないのになぜそう後ろ指を指されなければならない」  さざめき合う市民の間で、クリスティアンもまた唇を噛んでいた。  彼は不法入国な訳ではないが、身分や正体を明かすには少々まずいものがある。  先ほど姉の危機に割って入ってしまったが、本来目立ってはいけないのだ。 「聞け!」  俯いたクローディアの隣で、エルキュールが唐突に叫んだ。 「聞け! 何か疑問があるのなら俺が答えてやる! 噂の真相を知りたければそう言えばいい! 彼女が何者か俺が答えてやろう!」  長大な剣を担いだまま、彼は噂を広げる市民を睨みつけた。 「誰もいないのか! 死者を操るのは本当か、死を連れて来るのは本当か、聞きたい者はいないのか!」  これが本来のエルキュールなのだろう。  大きな体躯から発せられる声は雷鳴のようで、睨みつける眼光も稲妻のように鋭い。  彼を知らない内のクローディアだったら、身をすくめ動けなくなっていたかもしれない。 「いないのか! 抱いてきた疑問をぶつける機会を逃すのか? エーノルメの次期国王である俺が答えてやる! そこのお前! 先ほどクローディアに“穢れた女”と言ったな? 彼女が穢れているかどうか、俺が答えてやろう!」 「め、めっそうも、めっそうもございません……お、王子妃殿下は見たままの美しい方で……」 「ほう……ならば疑問はないのだな。では貴様はどうだ。貴様は確か“冥府の売女”、そう言っていたな」 「ひっ……と、と、とんでもないです……」 「では貴様も何も問題ないと?」 「ご、ございません! お、お二人のご婚礼を心より祝福いたします……」 「そうか。では他の者、聞きたいことはないのだな? 何も異論はないと、そうであるのだな?」  動けない市民が黙り込む。  皆王子夫妻の方を向いたまま、微動だにしない。 「では俺が彼女の正体を教えてやろう。彼女は覚悟と誠意を持った、フィルディの美しき姫クローディア。そして俺の最愛にして最良の妻。異を唱えるなら今だ。誰もおらぬのか?」  誰も動かない。何も発しない。  そんな中に、突然拍手が沸いた。  最初に拍手をしたのは、新緑の目に飴色の髪をした少年だった。次いでその隣にいる老人。そこから広がり、やがて割れんばかりの拍手になる。  その光景に満足したエルキュールは隣にいる妻を見た。  彼女はエルキュールを見上げ、ポロポロと涙を零していた。
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