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「ディア……何をそんな泣いている」
そっとその涙を指で払ってやる。それでもまたすぐに濡れてしまった。
「エルク、ありがとう。私ずっとあなたが好き。死後の世界まであなたといたいの」
「ああ、だがそれは今世を全うした後だ。俺が先に逝けば君を待っている。君が先ならば、どこにいても追いかけよう」
「私も待ってるよ。いくら綺麗な場所でも、先に行ったりしないんだから。エルクのいない場所なんて、どんなに綺麗でも寂しいに決まってるの」
エルキュールがクローディアの涙をもう一度拭い、そのまま唇を重ねた。
人前では恥ずかしがるクローディアも、この時だけは断らなかった。
泣きながらひしと王子の首に縋りつき、王子もまた妻を優しく胸に抱く。
純粋な愛情で唇を重ねる姿に、感動を覚えた市民も少なからずいたのではないだろうか。
「ディア、愛している。森で出会った時からずっと」
「エルク、愛しているの。これから先、死を迎えてもずっと」
王子夫妻の襲撃事件と化してしまった披露パレードも、こうしてなんとか無事終わりを迎えた。
めでたいはずの席でのとんでもない事件だったが、これを機に少しでもクローディアに対する見方が変わってくれれば。
馬車に再び乗り込むとその腕の中にまた愛妻を閉じ込める。
クローディアに対する不気味さが完全に払拭されたわけではないが、彼女を固く抱きしめる王子の愛が本物であることは誰もが理解した。
後日、オートリー伯爵が持っていた念書により加担した者は全て捕らえられ、王家への反逆罪としてすぐにエーノルメ王によって処刑されてしまった。
表向き王に仕えていて腹では私欲が渦巻いていることを知っていた王は、利用できないようならとこれを機に一掃してしまったようだった。
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