戦の前夜

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「ではもう一度誓わせてもらう。この剣はクローディアを守るために振るわせてもらおう」 「敵であるときはなんと手強い相手かと思ったが、味方になるとなかなかに頼もしいものがございますな。何卒クローディア様をよろしくお願いいたします。姫は砦を守る我々の癒しであり戦友でありますからな」  アンクレー伯爵と弟クリスティアンが、クローディアとエルキュールが仲睦まじいことを知り安堵した時だった。  カートの部下の一人が、火急の知らせを持ってきたのである。 「どうした?」  席を外したエルキュールに耳打ちすると、「何!?」と彼も驚きを隠せなかった。 「エルク、何か悪い知らせなの?」 「オロールの侵攻が始まった」 「なんと……フィルディは彼の国に関してそれほど情報を持ち合わせてはおりませぬが、近頃周辺国の物資が大量移動している噂程度なら……戦の準備であったのか」 「すぐに王宮より陛下の招集が殿下にもかかるかと思われます」 「確かに動きがある報告はカートから受けていたが、こうも急展開になるとは思っていなかった」 「周辺国の働きかけが大きかったのでしょう」 「エーノルメを恨む国は多いからな……父上、ここに来てそういう外交政策が響いてくるのです……」  ここまで黙っていたクリスティアンが、エルキュールの前に進み出た。 「兄上……いえ、殿下。殿下がお戻りになるまで、姉上の傍にて滞在してもよろしいでしょうか」 「クリス、ダメよ。あなたはすぐに国に帰りなさい」 「ですが兄上が出兵なさるのに姉上の傍に誰もいないのは酷ではないですか」 「あなたの気持ちは嬉しいの。でもそれでもダメよ。今からすぐに伯爵と共に――」 「いや、いてやってくれないか、クリス」 「エルク!」 「ディア、君は弟が心配でそう言うのは正しい。彼はフィルディの次期国王だ。無駄に危険が及ぶ場所にいるべきではない」 「ならどうして……」 「クリス、少しいいか」  エルキュールはクローディアではなくクリスティアンを呼ぶと、「少し外す」と言って扉の外へ出た。
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