素敵な骨

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「私クローディア。これからしばらくよろしくね」  それまで黙って見ていたジュレが、主の自己紹介を聞いて溜息をついた。 「本名を名乗るべからずと言いましたのに。あの世に引き込まれても知りませんよ」 「大丈夫。あなたはそんなことしないもんね」 「はい」  短い声は男の声だった。  名前の由来と同じように、響き渡るような骨太の声。実際、この骨は他の死体より太いと思う。 「それじゃあ約束の剣ね。夜まで待ってくれる? そうしたら取りに行くから」 「取りに?」 「うん。あっちに砦があってね、こっそり分けてもらうんだ。あと鎧とマントももらってこよう。かっこいい骨だからかっこいい騎士の姿のほうがいいよね」 「クローディア、俺のは……」 「えーと、じゃあ何か適当に」 「なんだろう、この扱いの差は」 「ふふ。シャンピーは“かっこいい骨”じゃないのよ」  肉体があれば悲嘆にくれるシャンピーと、それを妖しく笑うジュレの顔が見られたかもしれない。  それから夜になるまで、クローディアは随分とこの新しい護衛と話をしていた。  魂が器に入る時、生前の記憶はほぼ持ち越されることはない。  ほぼとは、性格だとか喋り方だとか知識だとかは持ち越されるが、個人に繋がる意識が薄れるのかその辺の記憶は曖昧になるらしかった。  エクレールもまた生前の記憶は曖昧なようだが、話の中でその人柄は伺えるものがある。  彼は術者を主として扱い、目上に対する物腰ははっきりとしていた。  最初は完全に主従を弁えた口調で、クローディアがいつもの調子で話かけても崩れることはなかった。  彼女にとって森で共に過ごす死者は主従より家族や友達に近いものがある。  そんな上下のある話し方は嫌だった。 「ねえエクレール。あなたはきっと本当に立派な騎士だったんだね。もしかしたらかなり上の将校とかだったのかな。私、戦場は知らないから有名な人でも分からないの」 「私にもその辺りの記憶はございません」 「そうよね。シャンピーも自分のことはあんまり分かんないもんね。でね、エクレール。あなたはとても立派だと思うわ。でも、私ここではみんなとお友達や家族みたいにしたいの。だって他人行儀で寂しいもの。だから、もう少し崩してくれたら嬉しいな」 「御意……」 「ほらもう、その“御意”。あなたお友達に御意なんて言わないでしょ。ね、お願い。私その方が嬉しいの」 「……分かった。ならば改めさせてもらおう」 「やったー! ね、ずっとお話ししやすいの!」
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