国王の秘策

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「殿下! 北側がもう持ちそうにありません!」 「援軍はどうなった?」 「まだ陛下よりなんの連絡もございません!」 「クソ、父上は何を考えて……仕方ない、北の兵を下げろ! こちらも全軍下がる。敵の侵入は許してしまうが全滅よりマシだ! 砦に下がって体制を立て直す。全軍後退!」  後方の砦は地形が狭くなっている分敵が集まりやすい。  層は厚くなるかもしれないが、数で一気に攻められる心配が少し減る。  それでも数で押されたらやがて墜ちるのは明白で、籠城しようにも今は援軍が期待できない状態。    王子の窮状を聞いて、国王は「それで良い」とほくそ笑んだ。   「そろそろか。フィルディの姫を連れて来い」  そうしてエルキュールの出陣から三日後、クローディアは護衛を一人伴い王城へと向かう。  護衛のふりをするクリスと共に頭を垂れる前には、玉座から冷たい目を向ける国王がいた。 「護衛は下がるが良い」 「ですが――」 「下がりなさい、クリス」 「……はい」  クリスティアンがいなくなると、王はようやく口を開いた。 「戦況を知っておるか」 「あまり芳しくないと、そうお聞きしました」 「あまり、どころではないな。このままでは王都へ攻め込まれるのも時間の問題だろう」 「あの、え、エルキュール様は……」 「あやつは最前線から退かない男だからな。王都に敵が来るのであれば息子の屍を乗り越えてやって来るであろうな」 「そんな……」 「余はな、援軍を送ろうかと考えておる」  まだ兵力には余力があるらしい。クローディアはそれを聞いていくらか胸を撫でおろす。  だが次の言葉で凍り付いた。 「援軍はな、そなたの死霊兵だ」 「うそ……」 「おお、否定はせぬか。余は何故大事な事を忘れておったのか。あの死の森を攻略できずに苦戦を強いられた理由は多くの兵が遭遇したと言う幽霊や死霊兵。そして砦攻略のあの日、そなたには白骨の騎士がついておった。余を追い詰めたのも憎きその骨よ。あれは全てそなたが操ったものであろう?」  死霊兵に追い詰められ、這う這うの体で逃げ出したエーノルメ王はそれ以来目に見えない何かを恐れるようになってしまった。  そのため必死に脱走を試みる最中の砦での出来事を半ば忘れていたのだ。  クローディアが死霊使いである可能性にすぐに結びつかなかった。  だがようやく気付いた。 「嘘のつけない子供め。何も言わんでも顔に答えが書いてあるわ。さて、では本題だ。そなたが死霊兵を使わないと言うのなら別にそれでいい。エーノルメはついに陥落するであろうな。無論その前にエルキュールがどうなるかは分かるだろう」  彼は自分の息子を人質に、彼のこれからの運命を細かく教えてやった。  玉座から立ち上がり、クローディアの周囲をゆっくりと歩く。
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