国王の秘策

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「エルキュールは……もしも捕らえられたのなら、恐らくは酷い拷問を受けるであろうな。指揮を執ったのは余ではなくヤツだ。散々オロールを苦しめた指揮官がどうなるかは、そなたの平和な頭でも想像できるであろう」  コツ、コツという靴音がクローディアを追い詰めるように響く。 「ですが陛下、エルキュール様は、陛下のご子息ではありませんか。陛下もそのようなこと望まないのでは?」 「そうだ、望まぬ。だが余が望まぬとも、そうなってしまっては仕方ない。余に降伏を呼びかけ、応じぬのなら殺すと脅すであろうな。息も絶え絶えの息子を磔にし、見世物のようにいたぶりながら」 「おやめください……」 「昔の拷問の一つにな、わざと致命傷ではない傷を作り、そこに寄生虫を落とすと言うのがあってな――」 「おやめください!! どうしてご自分の子にそんな恐ろしい事を言えるのですか! そんな脅しいりません! 私が、私が死霊兵を援軍として送ればそれで良いのですから!」 「話が早くて助かる。何が必要だ? いかほど作れる? 必要なものは揃えてやろう」  王は急に態度を柔和にすると彼女を立たせた。 「死の森のように、さ迷う魂と死体があれば……数は……その数だけ……」  クローディアが震える声で答える。  王は少し考えた後、「ならば」と言って臣下を呼んだ。 「姫を共同墓地へ連れて行け。魂の方は知らんがそこなら相当数の死体があるだろう」 「御意」  案内人に付いてクローディアが唇を噛んだまま扉の外に出る。  待機していたクリスティアンが駆け寄ろうとすると、警備兵に止められた。 「クローディア様! どちらに!」 「あなたはもう戻りなさい。役目は終わりです」 「何を……」 「行きなさい。私のことはもう構いません。陛下に庇護していただきます」  クローディアは顔も上げず、淡々とそう答えた。  もう、国に戻ってもらって構わない。  あなたまで巻き込まれてはダメ。 「クローディア様、エクレール殿に何かお伝えすることはございませんか」 「エクレール……ごめんなさい、約束は守れないの」  エルキュールとエクレールが同一人物であることは既に聞いていた。  クリスティアンは直接知らないが、花嫁教育中にジュレとの会話に度々登場していたのは知っているし、アンクレー伯爵は顔見知りなのか驚いていた。  約束とは死霊術を使わないこと。  つまり姉はこれから、死霊術でもって援軍を用意するのだろう。  王の庇護は嘘に決まっている。 「承りました」  姉はこのままでは冥界に囚われてしまうかもしれない。  エーノルメの王に、姉と義兄の幸せが壊されてしまう。  だがそれ以上そこに留まることも出来ず、彼は姉の背中を見送るとすぐに城を後にした。
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