国王の秘策

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 クローディアが案内された共同墓地は、中心に墓地にお決まりの冥界の神殿を模した小さな建物がある。そこを円形に取り囲むように小さな墓石が等間隔に並んでいた。  身分のない歩兵が眠る墓地。家族の元に帰れなかった者はこうして仲間と一緒に埋葬されるのだ。  彼女は墓地全体を見渡し、あまりいい気配のしない魂がいくつかぼんやりと佇んでいるのが分かった。  ここでもっと長い時間あのままいたら、いずれ悪いものへと変貌しそうな雰囲気があった。 「さあ、始めるが良い」  王の言葉にクローディアが黙って頷く。  彼女はポケットからいつもの通りセージを取り出すと、火を点け地に落とした。  香りが広がり、神殿の近くにいる魂が気づいた。 「陛下、捧げものが必要なのですがよろしいでしょうか」 「申せ」 「銀貨、ワインを大量に。ハーブもあると助かります」  王が側近に頷いて見せる。  ほどなくしてクローディアの周りには死者への供物が集められた。 「こんなお願いごめんなさい。あなた達はもう既に精一杯戦ったのよね。……それでももう一度戦ってくれる? 誰か私と一緒に、エルクを助けてくれる?」  最初に気づいた魂がゆらゆらと彼女の元にやって来た。 「ありがとう。あなたは他に来てくれる魂がいないか探してくれないかな? ここの墓地にはあまり魂はいないのね。皆戦場に留まってしまったのかしら」  王が憎い。  あなたの後ろに立つその男が。   「……ごめんね。私には今どうすることも出来ないの」  魂の声は他の者には聞こえない。  霊と交信を始めたらしいクローディアの姿を見て歪んだ笑みを浮かべる国王は、まさか話の主語が自分だとは思わない。  俺が戦うのは、王子のため。  殿下の窮地とあらば、今一度剣を握ろう。 「ありがとう……ありがとう……」  どうやらその魂はエルキュールに対しての信望は厚いらしい。  彼はふっと消えると、いずこかへと他の魂を探しに行った。  墓地にはまだ幾人かの魂が漂っており、皆王に対して悪い念を抱いていた。  その中の一つがふらっと王の元へ飛んで行こうとするので、クローディアがそっと手で遮る。 「だめよ、あなたがこれ以上苦しむ必要はないの。悪いものになってはだめ」  ウググ……  ニクイ……コイツ……  バカナ……  ばかなさくせんばかり……  むりやり、むだな、作戦……  お前も、無駄な、作戦? 「ええ、そうなのだけど、今は仕方ないの。私の大事な人を守るために」  オデ……おれ、あんたのため、戦う……  だからおわったら、仲間のところ、行きたい……  きれいなとこ、先行った…… 「ちゃんと送るわ。ありがとう。助かるの」  最初に彼女の元に来た魂が、いくつもの同胞を引き連れ戻って来た。  彼女にはかつての戦場、フィルディのある方から流れてくるように見える。
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