国王の秘策

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   もう一度戦ってくれる魂たちに銀貨をばら撒き、ワインを土に飲ませた。  そうやっていくつも供物を捧げると、魂たちは各々の死体を見つけ入っていく。    ここから先に起きたことは、王にもその側近にも見ることが出来た。  小さな墓石がぼこぼこと動き、その下に埋められているはずの死体の腕が土をかき分けていた。  ここの墓地はやや古いので白骨化した者がほとんどで、白い骨が次々と自分の墓石をどかして湧き出て来る。  おぞましい光景に、側近は目を逸らした。  だが国王はこの骨が味方だと思うと笑いが止まらないらしい。  かつて自分に恐怖を植えたこの骨たちは、今度は自分のために働くのだ。 「こやつらに武器を」 「は……はい」  魂は相変わらず続々と現れる。  その数が五十を超えようとした頃。  もしクローディアと同じ力が使えるか、経験の多い魔術師ならば気づいたかもしれない。  彼女の魂の気配が、非常に希薄になっていることに。    彼女の目は今目の前の光景を映しているのだろうか。  続々と集まった白骨死体は、彼女の前に整然と並ぶと、その命令を待っていた。 「素晴らしい……余の兵だ。不死身の兵が余のものになったぞ……」 「黙れ、貴様の兵ではない。我らはクローディアの兵。我らの命を数でしか見られない貴様に、誰が再び仕えようか!」  白骨の一人が叫んだ。  彼はかなり強い念を持っているらしい。  それに呼応するように土から湧いて出てきた死者たちが「オォオオ」と叫んだ。    王は口をつぐむ。  白骨騎士に追い詰められた時のことを思い出していた。 「みんな、エルクを守ってね。お願いよ……」 「御意」  最終的に兵の数は六十体になった。  彼女が操るには多すぎる数。  それでも消えそうなセージにまた火を点け追加すると、「おねがい」と言った。  それが出撃の合図。  彼らは剣と馬を与えられると、一気にエルキュールらが立て籠もる砦を目指した。 「想定より数は少ないようだが減ることのない不死者だ。まあいいだろう」  王は苦々しくそう言うと、土の上にへたり込んだクローディアを見た。  彼女はどこを見つめているか分からない。   「気持ちの悪い女だ。では吉報を待とうではないか! 姫を連れて来い!」  そう言うと彼女を側近に任せ、王はゆっくりと出陣の準備をした。  死霊兵が敵を蹴散らし、敵を全滅させたところへ、後から悠々と砦に現われるつもりだった。
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