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死霊兵団
砦に辿り着き防衛線一方になって丸一日が過ぎた。
敵兵は目視でも分かる距離で陣を構え、突撃命令を待っている。
砦に易々と攻め込まれないよう数々のバリケードはあるが、数に物を言わせた敵の攻撃にどこまで耐えられるか分からない。
「殿下、敵陣に動きあり。破城槌と投石器、歩兵と弓兵が突撃の準備をしている模様」
「正攻法で来たな。さて困った。援軍は無し、この数での防衛。ここまで到達されたらエーノルメは終わるな」
砦の最上階から敵陣を眺めるエルキュールは、困ったと言っておきながらどこか他人事のような口調でそう言った。
傍に控えるカートも同じような雰囲気だった。
「ここに投入された兵は全軍ではございません。陛下も何か企んで……失礼、意図があってのことなのでしょう」
口憚らない言い方にエルキュールも苦笑すると、自嘲気味に答えた。
「父上はどうも俺が邪魔らしい。いつだって父のやり方に立てつくのは俺だからな。さて。嘆いていても仕方ない。敵が動き始めたら俺たちも動くぞ」
「御意」
砦からただバリケードを突破されるのを眺めるわけではない。
彼らは作戦に移るために少数精鋭の別動隊を作ると、砦の裏からこっそりと配置へ向かった。
それから一時間後、ついにオロールの全軍が突撃を開始した。
砦の守備を任された部隊長は城壁の上からバリケード突破を遅らせるための牽制を続ける。
さらに攪乱作戦を実行するエルキュールは地形を利用し現れては火矢を放ち、すぐに退くを繰り返す。
そうしている内に敵陣の後方から火の手が上がった。
エルキュールとは別で動いていたカートが敵の糧食を焼くことに成功したようだ。
敵に動揺が走り、そこを更にエルキュールが攪乱する。
しかし敵もやられてばかりではない。
ちょこまかと神出鬼没な攻撃を繰り返す別動隊を潰すために新たに編成された部隊とついに衝突をしてしまう。
粘っていた砦へのバリケードも数を減らし、突破してきた投石器が次々と城壁に向かい攻撃を開始した。
これではそうもたない。
父よりこの砦を死守しろとの命が出ていたが、本隊が王都にあるのならもうそこまで下がるしかないのかもしれない。
あるいは、エルキュールが白旗を掲げ捕虜となれば無駄な戦死を減らすことは出来るかもしれないが。
どこからか飛んで来た矢がエルキュールの馬に命中し落馬してしまう。
彼はすぐさま立ち上がると鞍からフランベルジュを取り、横薙ぎに一閃させた。
目の前に迫っていた敵兵の馬が足をやられ、乗っていた兵が放り出される。
だがいかに屈強なエルキュールとは言え、長大な剣を何度も振るっていればその速度も落ちて来る。
既にこれまで体力は削られ、敵は王子の首級を上げんと猛攻を繰り返す。
精鋭の部下が一人減り、また一人……
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