死霊兵団

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 脳裏にクローディアの屈託のない笑みが浮かんだ。  彼女のその笑みを、もう二度と見ることは叶わないかもしれない。    その時、谷底の方からひと際大きな声が上がった。  ついにバリケードが全て破られたのだろう。それに敵は歓喜の声を上げ、砦に向かおうとしている……はずだが?  そうではなかった。  敵陣から湧き上がる声は恐怖の悲鳴だった。  最後のバリケードを壊しついに騎兵が投入されようとした時、その陣営を荒らす数十体の騎影が飛び込んだのだ。  状況がおかしいことにエルキュールを攻撃していた敵兵も気づく。  彼らは谷底を見て驚愕した。 「なんだあれは!」 「白骨? 白骨の騎士が本隊を攻撃しているぞ!」  その言葉に敵兵をかいくぐったエルキュールも下を見る。 「死霊兵……クローディア!?」  恐ろしい死体の騎士に敵兵は乱れ、大混乱に陥っている。  砦に攻め込むことを忘れ、目の前の脅威を排除せんと剣を振るう。  だが一度死んだ身の彼らは切られても矢を射られても、生身の馬をやられ落馬しようとも関係ない。  クローディアの命に従い致命傷にはならない傷を与えられた敵兵は次々後方に下がり、狭い谷底は悲鳴と恐怖と混乱のるつぼと化した。 「全員砦に撤退!」  エルキュールはその間に生き残った兵を集めると主を失った馬を拝借し砦に急ぎ戻った。  そこでは大軍を従えた父王が久々の鎧に身を包み敵陣を睨みつけていた。 「父上ェ! クローディアに、クローディアに何をさせた!」 「エルキュールよ、情けない。砦一つお前は守れないのか」 「わざわざ王都に本隊を残した父上が何を言う!」 「お前がこの素晴らしい部隊を隠し持っているのが悪い。見よ、あの大軍が一気に退いていくぞ。たった六十騎の兵に数千の部隊が押されておる。撤退も間近であろう」 「クローディア、クローディアは!?」 「女一人に騒ぐでない。妻などまたいくらでもあてがってやる」  父の言葉は無視して、クローディアの姿を探す。  彼女は後方で側近の一人に抱えられるようにして馬に乗せられていた。  その目は虚ろ。  フィルディで冥界に囚われそうになったあの時と同じだ。  エルキュールは下馬しクローディアに駆け寄ると、側近から彼女を奪い取った。
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