死霊兵団

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――なんと……こんな、こんなに余の不死の兵がおるではないか…… 「……父上?」  喜びに振るえるような声は、父王の声。その姿は見えず、頭上かそれとも後ろか、いずれにせよどこからか降って来るように聞こえた。 ――全部、全部余の兵だ……素晴らしい……これなら周辺諸国などと小さなことを言っている場合ではない。世界とて余の手中に収まるではないか! 「父上何を……どこに?」 ――余のものになるのか? あの小娘のように余も死霊兵を?  この会話は現世でなされているものなのか、彼には姿も分からず一方的な会話は全容を把握することは難しい。  それにこうしている間にも、クローディアはゆっくりと何処かへと流されていく。 ――いいぞ……いいぞ……素晴らしい……我は冥界に魂を捧ぐ者なり! クローディアに変わり、我が名乗りを上げよう! 我が名はギュエル・モーヴィエ・ドゥ・ラ・エーノルメ! さあ我に跪くがいい! 「どうしたことだ……余の兵は? なんだここは……熱い……臭い……ええい近寄るな! 何者だ! 兵はどこだ! おのれ、おのれ魔女め(たばか)ったのかぁああ!」  突然隣に現れた父王は、エルキュールとは違うものを見ているのだろうか。  虫にたかられ追い払うように、両手を振り回し何かを払おうとしている。  魔女とは、あの声の主とはもしかしたらジュレだったのかもしれない。  狂ったように何かを払っている父は、数秒とたたないうちに地面から伸びる無数の黒い手によって飲み込まれた。  後には何もない。  綺麗さっぱり、父の魂は消えてしまった。 「……は、クローディア!」  無我夢中で伸ばした手が、何かを捉えた。  その手の先には、何処かへと流されそうになっていた妻がふんわりと微笑んでいた。 「ディア……帰ろう……」  水底にずっと沈められていたような感覚に、エルキュールは大きく息をついた。  目を開けるとそこは砦で、腕の中にはほんのり暖かい妻が同じように大きく息をついていた。 「ディア……クローディア……あたたかい……生きているのだな」 「エルク……ずっと私を呼んでくれていた……」 「君が死ぬのが怖かった。もっと生きていて欲しかった」 「ただいま……ごめんね、約束を守れなくて……」 「俺こそ君をこんな目に……すまなかった、君も怖かったろう……すまなかった。どうか今一度俺と生を歩んでくれ」 「当然だよ……私もっとエルクと幸せをたくさん見つけたいもの」 ――お幸せに  空から聞こえたような声に二人が同時に頭上を振り仰ぐ。  視線を絡ませると、二人して笑った。二人にはジュレの祝福の言葉が聞こえたのだろう。  そしてそのまま唇を寄せ合う。  温かく柔らかな唇からは命を感じた。お互いの生を確かめ合い、合わせるごとに安心感が広がる。  多くの兵が見守る中、そうしてしばし二人の温もりを分かち合っていた。
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