仲裁者

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仲裁者

「陛下、エーノルメ軍の様子がおかしいです」 「今度はなんだ。死体の次は悪魔か?」 「いいえ、死者の軍隊は退いたように見えます。ところがどうもエーノルメ王の姿が見当たらないようで」 「ヤツは近頃腑抜けだ。元々参戦してなかっただけではないのか?」  撤退したオロールは、すぐ傍にある国境を越えると隊を整え直し、しばらくその地でエーノルメの様子を伺っていた。  糧食は燃やされ、このままこの地で戦い続けることは難しい。  どちらにしろ後退する必要はあるのだが、どうしてもあの死霊兵が気になり斥候に様子を探らせていた。  死霊兵はいなくなり、その代わり先程までいなかった新しい兵力が加わっていた。  どうやら砦で戦っていた王子には全軍の指揮権が与えられていなかったようで、王都から本隊が合流したようだった。  だがその様子はどこかおかしく、次の戦いに供えるようなことはせず、皆何かを見守るようにじっと動かなかったと言う。   「未だバリケードの修繕や隊の立て直しなど何も行われていない様子。ここでたたみかければ降伏まで持っていけるのでは」 「だがまたあの死霊兵が出たらどうする」 「糧食は一部残っています。全軍ならあと一日、兵力を半分にすればあと二日は持ちましょう。最低でもあと一日、ここで陣を張り様子を見るのはいかがでしょうか」 「よし。では全軍ここで一日様子を見る。そのまま突破できそうなら追撃を与える。無理ならすぐに撤退し再編する。砦を占領出来れば糧食問題もどうにかなろう」  砦でクローディアが息吹を取り戻す頃、こうしてオロールはすぐ傍まで軍を戻していた。  なので見張りが気づいた時には、オロールは再び目の前で陣を整えた後だった。  エーノルメが無防備な状態と判断したオロールは、ここで一気に砦を潰すことを選んだらしい。 「敵襲! 殿下、敵襲です! オロールが全軍戻ってきました! しかも今度は横方向に広く布陣しています!」  その声に流石にエルキュールも顔をしかめる。  まだ何の立て直しもしておらず、オロールが戻ることすら想定出来なかった。  クローディアの危機だったとは言え、部下に指示を出しておくべきだったのに。 「直ちに隊を立て直す! もうバリケードやゲリラ戦術の小細工は用意できん。正面から迎え撃つほかない! だが王都から本隊も合流した。やつらは糧食を減らしている。勝てなくとも一日耐えれば勝手に撤退するぞ。もうひと踏ん張り頑張ってくれ!」  全軍揃えてもオロールの半分にも満たない。  それでも彼らは武器を上げ雄叫びで応えた。  隊が再編され、砦の前方に整列する。 「クローディア、君は王都に――」 「だめ。私もここに残る。エルクと運命を共にするの」  愛らしいだけではないクローディアの力強い眼差しに、エルキュールは逡巡の後頷いた。  短い口づけを交わすと、クローディアは砦に下がり、エルキュールは隊列の最前線に進み出る。
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