仲裁者

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「父が始めたこの戦い、ここで終わりにするぞ! 俺には侵略の意志はないがエーノルメを終わりにさせるつもりもない! ここを防がねばエーノルメの民は皆オロールの民になってしまう。俺の代でエーノルメに終止符は打たせぬ!」  エルキュールの声に呼応する雄叫び。  死に(いくさ)が再び、始まろうとしていた。  恐らく勝つのは難しい。  兵はもちろん、クローディアもそれを分かっているだろう。  だからと言って明け渡すことなど出来ない。  父が無謀に始めてしまった戦に決着を付ける義務が彼にはある。   「弓兵構え!」  エルキュールが剣を頭上に掲げた。  「弓兵構え」の復唱が続く。  弦が引き絞られ、矢じりが敵陣を目指す。  エルキュールの号令を待つ中、その音はエーノルメの王都側から聞こえてきた。  全速力で駆け付ける蹄の音。  それが徐々に近づいてくる。 「今度はなんだ!?」  次から次へと起きる難題に、エルキュールも苛立った声を上げた。  これから突撃をしようと言う時に、なけなしの士気を下げるのは誰なのか。 「殿下、フィルディとエメデュイアの軍旗が見えます!」  城壁の見張り台から、そんな声が聞こえた。   「騎兵が十二騎、間もなく砦に到着します!」 「何事だ……弓兵そのまま待機!」  エルキュールは剣を降ろし状況を探る。  援軍を父が頼んでいたとは思えないし、援軍と言うより要人警護並の少数だ。 「先頭は少年、少年です!」 「まさかクリスか!?」  そして軍馬の音はついにエーノルメ軍に追いつき、そして追い越した。  睨み合う両軍の間に入ると、恐れもせずその真ん中へ馬を進める。  たった一騎で両手に軍旗を掲げるのは、数日前に兄と呼んでくれたクリスだった。 「両軍武器を引け! 私はフィルディ国王代理、クリスティアン・サージェ・ドゥ・ラ・フィルディ! 武器を引け!」 「フィルディだと? なぜこの場所に?」  オロールも第三国の登場に眉を寄せる。  戦場のど真ん中にいる少年は、右手にフィルディの、左手にエメデュイアの軍旗を持ち、足で馬を操りながら声を張り上げていた。 「フィルディ、そしてエメデュイアの名の元、両国に和解の場を設けたい! まずは武器を引かれたし! オロールの王よ、あなたも侵略が目的ではないのでしょう! 文明を知るあなたがここで手負いの相手を追い詰める必要はないはずだ!」  まだ十四歳のクリスティアンが、両国の主将に和解を勧める。クローディアも城壁の上に登り、弟の姿を見守った。  下手すれば誰かに射られてもおかしくない。  だが彼は恐れるような素振りは見せず、実に堂々としていた。
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