仲裁者

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  「これ以上戦い傷つく必要はないはずだ! 武器を引いて話し合おうではないか! エーノルメの王子、エルキュール殿下、それに異論はないか!?」 「我々は貴殿の申し出を歓迎する」 「オロールの王、シヴィリス陛下! エルキュール殿下はああ言ってくれた! この申し出を受け入れてもらえるだろうか!?」 「……よかろう」 「両軍とも私のような若輩者の声を聞き入れてくれたことに感謝する! 会談の場は両国に負担のないようこの国境にフィルディが責任を持って設営をする。日程は三日後の昼前だ。それで良いだろうか?」 「フィルディの計らいに感謝する」 「了承した。全軍帰還する!」  あのまま衝突していればエーノルメの敗北が決まっていただろう。  クリスの登場で、危機は自国へと帰って行った。 「はぁ。緊張した……」  掲げていた旗を降ろし、安堵の溜息をつくクリスティアン。  そんな彼の元へエルキュールが駆け寄った。 「クリス、礼を言う。あのままでは全滅していたかもしれない。しかしよくそんな手筈を整えられたな」 「姉上から離されてすぐ、きっと死霊兵を使うだろうことを考えました。でもそんなことをすれば恐らく姉上は……。急いで帰国すると、先に戻ったアンクレー伯爵によってフィルディとエメデュイアの連名で和解の場を設ける話が出ていたんです。アンクレー伯爵はエーノルメの兵力をかなり正確に把握していて、恐らくオロール相手では難しいと分かっていたようでした」  そこまで言うと、思い出したように血相を変え「姉上は!?」と辺りを見回した。  兵の列が割れ、カートに案内されたアンクレー伯爵が現れる。その後ろに、クローディアも共にいた。 「クリス!」 「姉上!」  急いで下馬し、クローディアを抱きしめる。  昔はクリスティアンの方が小さかったのに、今はすっかり姉の体より大きくなってしまった。  まだ成長中の彼はもう少したてばクローディアが見上げなければならないくらいにはなるだろう。 「クリス、凄く立派だったの。あなたいつの間にあんなにかっこよくなってしまったの?」  彼はちらりと義兄を見る。 「いえ、僕はまだまだで。ただちょっと、僕もいいところを見せたくなったと言うか、姉上をお助けしたかったと言うか」 「あらクリス! あなたもエルクが好きなのね!」  いつの間にかクリスティアンの中ではエルキュールは武人として憧れる存在になっていたらしい。  彼が今回奮起したのも姉を助けたいだけでなく、義兄に一歩近づきたい部分があったのかもしれない。 「光栄だ、クリス」 「きょ……恐縮ですっ」 「エルキュール殿下、ご無事で何よりでございました」 「アンクレー伯爵。あなたの知略と迅速な動きにも感謝を。フィルディの国王夫妻にエメデュイアまで……俺は国内の平定と共にお礼行脚もせねばならんな」 「それならばフィルディとエメデュイアにはこの老骨がお供しますぞ」 「それは頼もしい。さあ、もてなしは無理だが歓迎しよう。エーノルメ東の守り、エスピエール城へようこそ」
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