仲裁者

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 クローディアの、そしてエーノルメの危機はどうにか脱することが出来た。  父王の残した爪痕は深いが、ここからがエルキュールがずっと抱いていた理想の国を築く時。  会談自体も難しい局面を迎えるかもしれないが、武力衝突を避けられたのは疲弊した国にとってはありがたい。    三日後、両国の主要人物と仲介者のクリスティアン、アンクレー伯爵、そしてエメデュイアの代表者立ち合いの元、会談の場は開かれた。  難しい話合いが続き、数日に渡りなされた会談により、元はと言えば先に攻撃をしかけたエーノルメが責任を取る形に収まる。  代償はかなり大きいだろう。  国力を回復するのにギリギリのラインかもしれない。  だがその一部をフィルディとエメデュイアが負担することをオロールは承諾してくれた。  フィルディが、更に無関係とも言えるエメデュイアが力を貸してくれたのは、それだけ平和への願いが込められているのだろう。  結果として、エーノルメは肥沃な土地で採れる良質な作物を生産量の三割、向こう五年献上することになる。  さらに海のないオロールに対し、これも向こう五年海産物の関税が撤廃される。  一部肩代わりをしたフィルディは特産である毛織物を献上し、エメデュイアは宗教的特権の一部を条件付きで解放した。  まだ国を興したばかりのオロールとしては、下手に領土を広げたりするより国力増強となるこれらの献上、さらに特権の解放は十分な成果と言える。    こうしてエルキュールの父王が掲げた戦略に端を発する諸外国との戦争は、エーノルメの国力をかなり落とし終結した。    十日に渡る会談を終え、ようやくエルキュール一向は王都に戻る。  これから父の葬儀、そして新国王の戴冠式が続く。  居城は王都に移り、大量の戦後処理に追われる生活が始まるだろう。  ただそこには、必ずクローディアの姿がある。  そしてクリスティアンたちもまた王都で一日休んだ後、フィルディへと帰って行った。 「国内が落ち着いたらなるべく早くフィルディを訪れたい。どうか国王陛下夫妻にそう伝えて欲しい」 「一日でも早い来訪をお待ちしています。では姉上、今度こそ姉上と兄上の平穏な日常が続くよう、フィルディから祈っています」 「ありがとうクリス。あなたがいるならフィルディは安泰なの。私、とっても誇らしいわ」 「ああ。俺もフィルディの王子は俺の弟なのだと自慢出来る」 「や、やだな、二人揃って。えっと、じゃあ、お元気で!」  二国の間に立った時とは打って変わって、まだ少年らしさを残す顔に照れた表情を浮かべると、クリスの一団はフィルディへと帰って行った。  二人はその姿が見えなくなるまで街道から見送った。  フィルディに続く空は快晴。  風が心地よく流れ、草原の緑が波のようにフィルディの一行を追いかけて行った。    振り返った街は終戦を知り活気づいている。  もう少しでこの光景を失うところだった。 「ディア、少しだけ寄り道をして行こう」 「うん!」  寄り添う二人の姿は人々の雑踏の中に消えていった。  城に戻る頃のクローディアの両手には、溢れそうなくらいの菓子の包みが乗っていた。
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