フィルディへ

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「ん……あれ、私寝ちゃったの?」 「少しだけな。まだ眠いのなら寝ているといい。シャールはご機嫌だ」 「ふふ……可愛いね」 「俺はこんな愛らしい二人に囲まれ幸せ者だ」 「私も可愛い赤ちゃんとかっこいい旦那様に囲まれて幸せだよ」  手を咥えるのに忙しいシャールの額に、ちゅっとクローディアが口づけを落とす。  そのまま顔を上げると、ごく自然にエルキュールとも口づけを交わした。  やがてクローディアと初めて会った森が黒い影のように見えて来た。  ほどなくしてフィルディの旗に並びエーノルメの旗を掲げる砦が見えて来る。  そして国境の向こうではクリスティアンが十騎ほどの騎兵を従え出迎えてくれた。 「姉上、兄上、お待ち申しておりました! うわぁ、この子がシャールですか? ちっちゃい……可愛い……」  一年半ぶりの姉は母になったせいか、いつものふんわりした表情がすこしだけ大人っぽくなっていた。  そして弟の方も体が一回り大きくなり、もうあの庭で泣いていた頃の面影などどこにもない。優しい物腰は健在だが、騎兵を従えるその様子には精悍な戦士の片鱗さえ見て取れた。  砦で小休憩を取った後、クリスティアンが護衛の先頭に立ち、両親の待つ王城へと向かう。  城下街はエーノルメより規模は小さく素朴さがあったが、それでも人々には活気が溢れている。  エーノルメの商人の馬車もちらほら見かけた。半年前に街道の整備が終わり防犯が高まったことで、両国を跨ぐ商いが活発化したおかげだろう。    エルキュールは初めてフィルディの王城の門を潜る。  ずっとクローディアの両親に挨拶をしたいと思っていたが、やっと今それが叶えられる。  戦後に手紙は何通もやり取りしていたが、やはり今のクローディアを見てもらうことが一番の安心材料になるだろう。 「お母様っ!」  国王夫妻は入口のホールで出迎えてくれた。  クローディアが感極まって母に抱き着く後ろで、エルキュールは夫妻に敬意を表するように胸に片手を当て会釈をした。  父と自分の距離感とはかなり違う、庶民的な雰囲気の家族。クローディアはその家族の中で愛情をかけられ育てられてきたのだろうことが、抱擁をする母娘の様子だけでも分かった。少し羨ましく思えるかもしれない。  そう思っていたら、再会の後ろで挨拶の時を待つ彼のこともクローディアの母は抱擁で歓迎してくれた。
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