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「よく来てくれた。いや本音を言うとあと一年は早く来て欲しかったがな。だがそれでは初孫の顔は拝めなかったか。どこだ、私の可愛い孫は!」
「あなた、長旅の後なのです。赤子にも少し休息を与えてあげて下さい。でもちょっとだけ抱っこがしたいわ!」
「なんだお前もじゃないか」
乳母がシャールをクローディアに渡すと、クローディアは母にその顔を見せた。
「ああ、なんて可愛いの! クリスの赤ちゃんの頃にそっくりじゃない!」
「え、僕そんな小さかったんですか」
「当たり前でしょう。赤子の大きさなんてみんそんなに変わらないわ。ああ、ディア、母にも早く抱かせてちょうだい」
相変わらず手をしゃぶることに忙しいシャールが、始めて祖母の手に抱かれた。
目を細めてその可愛らしさを愛でる祖母は、顔のどこが娘に似ていて、どこが父親に似ているのか探しているようだった。
「ああ、もう私にも抱かせないか。……ほっほ、おじいちゃんだぞ。ああ、たまらんの。おお、なんだこの表情は。難しい顔をしておるぞ」
「ああ、お父様、えっと多分、それは……」
赤子から何やら妙な音が聞こえた。
「……こやつ……なんとスッキリした顔をしておるのだ。おおいけないいけない、これは泣くぞ、泣くのであるな?」
慌てて返されたクローディアの腕の中で、シャールはふにふにと声を出したかと思うと、あっという間に顔を赤くして泣き始めた。
「まあまあ元気のいい声! さあ、お部屋はこちらよ。早く綺麗にしてあげて」
初めましての挨拶に豪快な手土産を残したシャールは、不快感を訴え必死に泣いていた。それを囲む大人たちは、随分と嬉しそうに笑っていた。
乳母によって綺麗にされたシャールは、そのまま眠ってしまった。
「クローディア。ずっとあなたには申し訳ないことをしてしまったと思っていたわ。人質と分かっていてあなたを嫁に差し出すなんて、胸が張り裂ける想いだったの。でも――」
談話室で、お互い話せなかった胸中を語る親子。
クローディアの父も母も、彼女を嫁として差し出すのは断腸の思いだったろう。
「でも、今のあなたを見たら本当に幸せそうで。あなたはちゃんとエルキュール陛下に愛されていると分かって、今本当に安心したわ。私たちが愛する娘を大事にしてくれてありがとう……よかったわ。あなたが幸せで」
涙ぐむ母と彼女に寄りそう王に、エルキュールは謝罪と感謝を何度も伝えた。
その熱い言葉に胸を打たれた母と娘は、最後は二人して泣いてしまい、各々の夫が腕の中で優しく目元を拭ってやるという仲睦まじい姿がまだ恋人もいないクリスティアンの目の前で繰り広げられた。
少々目のやり場に困っていると、控える使用人がくすくすと笑っていた。
「クリス、安心なさい。あなたにもちゃんと良き伴侶を見つけてあげますから」
「いえ、僕はその、なんと言うか……おかまいなく」
なぜか興味なさそうな言い方をする弟に、姉が首をかしげた。
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