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「あれ? クリスって、誰か気になるご令嬢がいるんじゃなかったの?」
「なっ、姉上なんてこと言うんですか、ちが、違います! いや気になるけど……そうではなくて!」
「ああ、確か手紙に何か書いてあったな。エスピエール城に出入りしていたあのプラチナブロンドの娘について。名はアネット、あの周辺を守るミュール侯爵の娘だ」
「うんうん、あの時の会談を裏から支えてくれた方ね、とっても実直な方で、少し恥ずかしがり屋さんの」
「兄上まで! 違います! そ、そんなんじゃなくてですね! ちょ、ちょっとどんな方なのか気になって……気になっただけです!」
「まあ。私何も聞いてないわ。ちょっとあとで詳しく教えて下さらない?」
「アンクレー伯爵も何か知っているんじゃないか? 後で尋問してくれよう」
物騒な言い方をする父に、クリスティアンは更に慌てて答えた。
あの老戦士に言わせたら話を面白おかしく盛られてしまう。
砦で挙動不審になっていたことなんて、どう表現されるか分からない。
「やめて下さい! あれはそういうのじゃなくて、会談を取りまとめる役割を全うするのに僕物凄く緊張の日々で、そんな中色々世話をしてくれた彼女が癒しみたいに感じて……と、歳も上だしきっと許嫁とかいるし、もう一年以上経つし、ちょっと優しくしてくれただけだろうし……」
「彼女は確か二十三歳か。クローディアより上だな。そう言えば婚約者がいた気がしたが……」
「……え」
違うと言っておきながら、婚約者の存在がいると知ると、クリスティアンの顔は赤から青に変わった。
「な、なんだ、なら、は、早く、言って、くだされば……」
「いた気がしたが、それは相手の男がどうしようもなく女にだらしないとかで破談していたな。それ以来誰も相手を作ろうとしない、そう侯爵が嘆いていたな」
「……よかった……」
「よかったね、クリス!」
「ほんとによかった……って、え! 違いますからね!?」
皆クリスティアンの明らかな態度に笑いを堪えている。
そして父王はどこまで本気か分からない事を言ってこの場を締めた。
「よし、エルキュール。その令嬢のことを詳しく教えてくれ。今年の羊祭りに招待しようではないか!」
「父上までー!」
クリスティアンの反応に使用人も含めて皆で笑ったが、まさか半年後の祭りに本当にエーノルメの貴族が複数招かれることになろうとは、クローディアも思ってもいなかった。
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