素敵な骨

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「これはクローディア様。お久しぶりでございます。お元気にされていましたでしょうか」 「アンクレー伯爵! ええ、何も変わりないの。みんなも元気?」 「クローディア様が敵の侵入を防いでくれます故、砦の者は少々運動不足でございます」  初老の城主は冗談めかしてそう言うと、後ろの黒い外套の骸骨に目をやった。 「新しい骨の騎士でしょうか」 「ええ、そうなの。素敵な骨でしょ!」 「はっはっは。それは少々同意しかねますな。わたくしにはこちらの騎士もその辺の屍も区別がつきませんので」  骨の騎士は城主に対し胸に手を当て軽く頭を下げた。礼儀を弁えているらしい新参の騎士に、アンクレー伯爵もまた礼儀を返した。 「それで、クローディア様。今宵はどんなご用ですかな。剣でしょうか、鎧でしょうか」  殺風景な砦の中では一番豪奢な客間にクローディアと骨騎士を通すと、彼女はソファにゆったりと座り、骨騎士は背後に立った。  砦の兵の一人が、城主と姫にお茶を出す。 「その前にこちらをどうぞ。ジュレとクッキーを焼いたの」 「おお、これは兵も喜びますぞ。おいお前たち! 姫様お手製の菓子が届いたぞ! 心して食せ!」  兵に向かい武人らしい口ぶりで言うと、お茶出しをした兵士が喜んでそれを受け取った。女っ気のない砦で、妖艶な雰囲気を醸し出すジュレと、これからいい女になっていくであろうクローディアは癒しの対象だった。  骨にまでそんな対象として見るのはどれだけ兵は飢えているんだ、と思うかもしれないが、実はジュレ、失われた魔術の心得があるらしく外出時には肉を纏っている。  それが生前の骨の主の姿なのか、中にいるジュレの魂の姿なのか分からないが、人ならざる者と分かっていても目の前を通り過ぎる肉感的な女にうつつを抜かす兵は多い。それがまやかしだったとしても。 「姫は今日も可愛いなあ」 「ジュレ様のお手製……たまらん」 「俺、ジュレ様に罵られたい」  砦でのジュレはどうやら異様なカリスマ性を発揮しているらしく、聞こえた言葉にエクレールは苦笑した。 「クローディア様、わたくしも陛下よりお預かりしている物がございますぞ。お帰りの際にお渡しいたしましょう」 「お父様ったら、また贈り物……そんなことしなくても、私はずっと家族を想っているし愛しているのに」 「子を想う親の気持ちも少しはご理解くだされ。陛下も王妃殿下も人の親でございます故。弟君も馬を覚えてきたようで、早く遠乗りでこちらの砦に来たいとおっしゃっておりましたぞ」 「まあ、クリスったらもう馬術も出来るようになっていたのね!」  弟のクリスティアンは四歳年下の十二歳。心根の優しい子で、幽霊が苦手。姉の力を恐れるが、姉のことは大好き。  クローディアは戦争下にあるこの国で、物静かで優しい弟が武器を取らざるを得ないのが気がかりだった。  本当は、皆に会いたい。  でもせっかく変な噂も消えたのに、今更王宮に戻ってもし再び戦争が起きれば……国内に火種なんて用意したくなかった。  伯爵に「では本題を」と言って武器庫に案内されると、エクレールは外套を取り去り、見事なまでの骨格を現わした。
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