素敵な骨

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「生前はかなりの大男でしたでしょうな」 「外側はそうかも。中は別だから分からないけど」 「いつものように革の鎧にいたしますかな。防御力は生身ほど気にされますまい?」 「うん。見た目の問題だから騎士様らしければそれでいいの」  伯爵は「騎士らしい、ですか」と言いながら装備品を厳選してくれた。 「ところで相手に恐怖を植えるのが目的であれば、むしろ鎧を着こむより骨を活かした方が効果的なのではと思うのですが……」  そう言って作業台の上にごちゃっと装備品を乗せると、エクレールに次々渡していく。  白い腰巻の上に膝下まである革の前垂れ、大きなバックルとリベットのついた革ベルト。そして本来一番守るべきである胸当ての部分は何もなく、これも革のショルダーアーマー。その上から真っ黒なマントがつけられた。  肋骨部分が丸見えなことにより、より人間離れした容姿は確かに恐怖心を煽るかもしれない。  現に途中で出入りしていた兵士がそれを見て一瞬びくっと身をすくめたのをクローディアも見た。 「かっこいいの!」 「本当はもう少し鎧も朽ちかけた方がおどろおどろしいのですが」  どうやら伯爵は面白がっているらしい。  より恐ろしい外見にしようと画策していた。 「水を注すようで申し訳ない。出来れば俺は剣の方を重視したいのだが」 「そうだった。ねえアンクレー伯爵。エクレールに相応しい良い剣はないかな? 護衛になってもらう代わりに、良い剣をあげるって約束したの」  伯爵は少し考えると、奥から長い剣を一振り持ってきてくれた。  鞘のないその剣は、刀身が波打ち美しい。持ち手も装飾的で、儀礼用にも見えた。 「こちらはどうですかな。この砦に宝と言うほど貴重な剣はございませんが、名工が作った上に祝福も受けています。昔は砦の就任の儀の際に使っておりましたが、今は壁の飾りと化しております故。もちろん殺傷力もありますぞ」 「フランベルジュか。悪くない。幅が割とあるな。珍しい。これなら敵を蹴散らすのに不足はない」  吟味の後剣を構え、使い心地を確認するかのように持ち手を握っている。  一振りしたいようだが、狭い武器庫でそれをしたら大惨事だろう。 「だめだめ、脅かすだけなんだから本当に斬っちゃだめ!」  物騒な事を言うエクレールを慌ててクローディアが止めた。伯爵すら思考がいつの間にか殺傷に向いていて、男二人が「これは失礼」と同時に言う。 「大型武器はロマンですぞ……と、姫に申しても仕方ないですな。本来馬上で扱うものでもないが、なに、お主のその巨体なら箔がついていいだろう」  エクレールは大きく頷いた。  ニヤりと不敵な笑みを浮かべたつもりだが、それは誰にも伝わらなかった。  ただしクローディアにはその不敵な様子が雰囲気で伝わったらしい。 「ねえ、危ないことしちゃだめだよ」  そう言って骨の腕にすがると、「心得ている」と返って来た。 「あっはっは。なかなか骨のある武人のようですな。骨のある、と言うより骨しかないのだが。かつて敵だったかどうか知らんが、少しばかり手合わせしたくなりますな!」 「もう、なんでみんなすぐ戦いたがるの。私は戦いはなくしたいの!」  可愛らしい姫に怒られしゅんとなる城主と大きな骨の男を見て、今度は周囲にいた兵士が笑った。
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