死の森に舞う

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死の森に舞う

 森の泉の周りは少し開けていて、時折動物が訪れては水を飲み憩う場となっている。  今日はその憩いの場に、重たい剣の音が響いていた。  と言っても、二、三回も響くと鈍い金属音を響かせた後しばらく音がすることはない。  そんな音も、三回ばかり繰り返すと止んでしまった。 「無理! 俺には勝てない」  そう言ってへたり込んだのはシャンピー。死者なので疲れるはずはないのだが、彼の心情がそうさせたのだろう。  彼の前に仁王立ちで長大な剣を構えているのはエクレールだった。  昨夜クローディアと共に戻ったエクレールが剣を試したいとのことで、朝から二人はこうして剣を打ち合わせていたのだ。  一戦目のシャンピーはすぐに剣を取り落し、二戦目はあばら骨を一本折ってしまった。  三戦目は剣を三回打ち合わせたところで腕ごと取り落してしまった。  腕を付け直した彼は、こうして泉の傍に腰を降ろし降参した。 「生前はさぞ名のある名将だったんじゃないか?」 「さあな。その辺は分からん。お前の太刀筋も悪くなかった」 「クッソ、勝者の余裕かよ」  シャンピーは悪態をつくと立ち上がり、折れた自分のあばら骨を拾った。  外れた物は戻るが、砕けた物は戻らない。  彼は面白くなさそうにそれを泉に放り投げた。 「あ! 体は別の人なんだから勝手にそんなことしちゃだめ!」 「す、すまん」    クローディアに咎められたが、骨はもう手の届かない所にしばらく浮いた後、沈んでしまった。 「また手合わせ願う」 「二度とやらねえよ!」 「まあまあ、シャンピー。シャンピーもかっこよかったよ? それにこの一年近く私をずっと守ってくれたのはシャンピーだし。あなたの方が先輩なんだから」  白骨死体は随分と人間臭い動きで溜息をついた。 「まあクローディアを守る者が増えてよかったよ。おいお前、しっかりクローディアを守れよ。先輩の言うことは絶対だからな」  シャンピーはその声に若干の悔しさを滲ませつつエクレールにそう言うと、剣をしまった。  エクレールも剣を独特な振りをした後、肩に背負った。 「なに? 今のなに! 剣をぶんてしたの!」  クローディアがデザートを前にした時のように目を輝かせて聞いて来る。  エクレールは「これか?」と言うと、また剣を手に取り今の振りを見せてくれた。 「それ! かっこいい!」 「癖だろうな。元々は剣舞の一部だ。誰かに教えてもらった気がするが、よくは分からん。体には……と言うか魂には刻まれているらしいのにな」  そう言うと先程より長い剣舞を見せた後、剣は優美な弧を描いて背中に戻った。  素敵! とはしゃぐクローディアを見て、シャンピーは「敵わねぇわ」と苦笑した。
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