死の森に舞う

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「クローディア様、出来ましたよ」  その声に三人が振り向くと、小屋からジュレが出て来るところだった。  彼女は昨晩クローディアが父から貰った贈り物であるドレスのサイズを調節してくれていた。少し大きめだった部分を詰めてくれ、ぴったりにしてくれたに違いない。 「着るわ!」  パタパタと小屋に走って行くクローディアを見送り、シャンピーは一度も勝てなかった相手に話しかけた。 「あんたやっぱエーノルメの人間だな。剣の癖があっちの兵と同じだ。俺は多分傭兵。多分エーノルメで死んでると思う」 「多分、が多いな」 「そうなんじゃないかってだけで明確に覚えてるわけじゃないのはあんたも同じだろ。なんでか生に執着して、おっ死んで、悪霊に成りかけて……傭兵のくせになんで生に執着したんだろな。まあ、クローディアのこと頼むよ」 「どういうことだ?」 「なんか、そのうち俺も消えそうな気がする。多分な、多分。そしたらクローディアを守るのはあんただ。新しいヤツも来るかもしんないけど、あんたのその剣以上なんてのはなかなか来ないだろ」 「承知した。安心して逝け」 「おう、頼んだ。お前も早目に逝けよ。クローディアの傍は居心地いいからな。死ぬのを忘れちまうぞ」 「ならば後任を見つけた後だな」 「そりゃそうだ」  目に見えぬ友情のようなものに頷き合うと、扉が再び騒々しく開いた。  中から彼女の目に似た新緑のドレスを纏ったクローディアが駆けて出て、二人の前でくるりと回って見せた。 「どう? 二人とも? お父様ったら、これで四着目よ。夜会なんてないのに、どこで着ればいいのかしら?」  シャンピーとエクレールが二人同時に、それぞれ「可愛い」、「愛らしい」と言った。  二人の言葉に「ありがとう」とにっこり笑うと、泉の傍で自分の影を必死に映そうとしていたが、全身を確認するのはなかなか難しかった。 「愛らしいって可愛いとどう違うんだ?」 「む……考えたことがなかったな。だが彼女には“可愛い”より“愛らしい”が相応しいように思う」 「なんだ、可愛いの上位互換か?」 「……そうかもしれん」  自分の全身を見るのを諦めたクローディアは、今度はスカートが広がる様が面白いのか、くるくる回っては自分の動きについてくるレースの動きを確かめている。  まるで仔犬が自分の尻尾を追いかけるようなその仕草は、エクレールにはやはり「愛らしい」と言う言葉がぴったりに思えた。 「お父上は戻って来て欲しいのでは? ドレスを見て宮殿を懐かしみ、里心を起こして欲しいのかもしれん」 「お母上も、綺麗な盛りの娘の成長を傍で見れないのは寂しいんじゃないか?」  泉のほとりで、「うん……」とクローディアが項垂(うなだ)れた。  本当は会いたい。  本当は一緒に暮らしたい。  
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