死の森に舞う

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「ここには、たくさん死があるの」  いつの間にか外に出てきたジュレも、彼女の言葉にそっと耳を傾けた。 「ほとんど戦争で死んだ人。ここにいればみんなの力を借りて国を守ることもできるけど、でもそれだけじゃないの。フィルディの人も、エーノルメの人も、戦争がなければこんなに死ななかった。私はフィルディの王族。この力を授かったのは、何か意味があるかもしれない。何があるのかなって思ったら、そんな死んだ人たちをちゃんと送ることかなって思ったの」  恨み、悲しみ、恐れ、怒り……戦争では様々な思いを胸に、無念の死を遂げる人がいる。  ここにいるシャンピーもそうだし、来たばかりのエクレールもそうだろう。  彼女が直接死を下したわけではないが、王族であるなら責任が伴うのではと、この森にさ迷う多くの魂を前に彼女はそう思った。   「だから、ちゃんとその責任を果たしたいなって。私しかこの力がないのなら、王族を代表して……おこがましい? 私みたいな戦場に立ったこともない小娘に、そんなの生意気?」  天真爛漫と言えるクローディアが振り向き、その瞳を不安で揺らした。  彼女は彼女なりに、王族としてこの戦争に向き合い、小さな胸を悩ませているのだろう。  護衛二人は言葉で答えず、剣を地に突き立てその場に片膝を立て跪いた。  片手を胸に当て頭を垂れる。  本来主君に対して忠誠を誓うこの姿勢。彼らが言葉よりも強く示すことが出来る、最大限の敬意。 「ちょっと二人とも! 立ってよ。そういうのは嫌だって言ったのに!」 「クローディア様、二人はその忠誠を認めないと立ちませんよ」 「えぇえ?」  戸惑うクローディアを「さあ」とジュレが急かす。  彼女はシャンピーの扱う剣を両手で抜くと、幼い頃見た父の真似をした。  骨の首元に剣を当て、肩を軽く叩く。  次いでエクレールにも同じことをした。 「もう、二人とも……」  クローディアは一仕事終えた気持ちになると、剣を置いて「二人とも大好き」と言ってシャンピーの首に抱き着いた。彼は「うおっ」と驚きその体を受け止めたが、顔が赤くなったかは定かではない。  そしてエクレールにも同じように抱き着き、「ありがとう」と言った。  こちらは「ああ」と答えると、その背中を固い骨の手で撫でた。  クローディアは体を離すと、今度はいたずらっぽい表情で二人を見た。 「ねえ、踊りましょう! 私全然踊れないけど!」  十四歳からこの森に引きこもってしまったクローディアは、踊りも作法もその時点で教わることは無くなった。  だが父に贈られたドレスを纏い、昔の記憶を頼りに二人と踊りたくなってしまった。
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