死の森に舞う

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「あどけないわよね。あれで十六よ。本当ならもうお婿さんを探して大変な頃よね」  そう言って傍らに腰を降ろしたのはジュレ。今はもう骨の姿だ。 「……お前は何者なんだ? 魔術めいたものも使い、その落ち着き。いつから彼女と共に?」 「一緒にいるのは彼女が十三の時から。その年で死霊使いの力に目覚め、最初に起こされたのが私。その日はお城が大騒動だったわ。私はクローディアの誕生会を台無しにし、しかも国境には戦争準備中のエーノルメ。それからすぐに彼女には悪評が付き、十四でこの森に自分から引きこもった」 「なぜ悪評が? 悪いことなど何もしていないだろう」 「死霊使いが歓迎されると思う? しかも彼女は無自覚にその力を使うのよ。危なくて見てられないわ」 「お前は魔女なのか」 「そう呼ばれたこともあったわね。私も訳ありなのよ」  そう言うと彼女は服の胸元を広げた。  生身の人間であれば一瞬ドキっとする動作だが、出てきたのは骨。  ただしその肋骨の中には赤い何かが光っていた。 「私がジュレって名付けられた理由がこれ。イチゴのジュレに似てるから、ですって。私の本体はこれよ。これが壊れたら本当に死んじゃうの」 「……ならば今は死んでいないということか?」 「死んでいるけど、死んでいない。私は古い魔女で、理由があって自分からこうしたの」 「そんな弱点を晒していいのか」 「私はその気になれば国の一つくらい滅ぼせるもの。簡単に壊れることはないわ。でも私のことなんてどうでもいいの。今はあの()の話」  さらりと恐ろしく、謎の深まる台詞を言いながら、彼女はクローディアを見た。 「あの()、分かってないけど漠然と感じるものはあるんでしょうね。家族に会わない理由」 「彼女が言った通りではないのか?」  ジュレは頭を横に振る。 「死霊術と言うのはね、死者を扱う術でしょう。死に対して術者と死者、どちらがより詳しいと思う?」 「詳しい……使役できるのだから術者ではないのか?」 「違うわ。術者は死んだ経験はない。対して死者は死後の世界を知っている。死に対して経験値が高いのは死者なの。そんな死者を使役するのだから、術者は限りなく死に近い状態になる。一歩間違えば、より死に詳しい死者に連れていかれてしまうのよ」 「つまり死ぬ、と?」 「そう。あの娘が使うのは厳密には死霊術ではないけれど、とても近いものがある。彼女は常に死と隣合わせの日々を送っているの。戦場に立たない自分をあの娘は気にしたけど、死者を使役している時点で兵士と同じくらい死に近いところにいるのよ」 「家族に会わないのは……道連れを恐れて?」 「多分ね。肌で感じているんでしょう。冥界の空気を。彼女にとって死者はお友達。だけど死にたいわけじゃない。冥界の空気を感じるたび、きっと恐ろしいはずよ。臨死体験でもするかのようにね」  魔術に詳しいわけでも興味があるわけでもないが、ジュレの言うことは分かった。  だがエクレールは首をひねる。
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