悪霊を送る

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「ねね、変なこと、聞いていい?」 「なんだ?」 「エクレールはきっと私よりずっと大人よね」 「分からんが……あまり歳をとっていた感覚はない。だが少なくとも君よりは上だろう」  彼女はうんうんと頷いてから、また続けた。 「あのね、昨日。昨日、ダンスしたでしょ? えっとね、ジュレって、シャンピーのこと好きなのかな?」  昨日の二人の様子を思い出す。  あれは恋の駆け引きなどではない。  シャンピーは完全にジュレに手玉に取られているし、シャンピーもまたそれを分かっている。  もし何か発生するとすれば、一夜限りの……という大人の話ではないだろうか。  実年齢よりもずっと幼く見えるクローディアには、その辺のことはピンと来ないようだった。 「そういうのではないと思うが」 「そういうの?」 「つまり純粋な恋愛の話ではないという事だ」 「純粋じゃない恋愛ってなに?」  「んんっ」、とエクレールも答えに詰まる。  恐らく恋の欠片も知らないであろう彼女に、先にそんな酸いも甘いも知った後の話をするべきではない気がする。 「それは君がどれだけ恋について知っているかで回答が変わるな」 「どれだけって、それって恋に落ちた回数? 恋人の数?」 「いやそう言う事でなく……恋に落ちた先にある話というか」 「恋の先……結婚かな?」 「分かった。何も知らないことが分かった」  何も知らない、と言う言葉にクローディアは引っかかったのか、返す言葉には棘が含まれていた。 「どうせ私は何も知らないもん。子供だし、恋なんてしたことないもん」 「十六歳は子供ではない。もう嫁ぐ者もいる」 「そうなの?」 「特に貴族はそうだ。嫁ぎ、早々に子を産むことを求められる」 「十二歳の時に“あなたもこれで女の勤めが果たせるのね”って死んだおばあ様に言われたけど、勤めって赤ちゃんを産むことでしょ? でも私何も知らないの。男の人と女の人がいないとダメってのは知ってる。お母様が“素敵な人が現れたら分かるわ”って言ってたから。エクレールは知ってる? それとももう子供がいたのかな?」  今度こそどう答えるべきか。  ここで余計な言い方をして真っ白な状態のクローディアを男性恐怖症にしてしまっても困る。しかも王家の人間、絶対にどこかで子を産むことを求められる。  エクレールは逃げることにした。生者の問題は生者で解決してもらおう。
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