悪霊を送る

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「まず恋をしてから学んだらどうだ」 「恋をしないと赤ちゃんは出来ないの?」 「……伴侶と共に儲けるべきだ。恋の先に結婚があると今自分で言ったではないか」 「それでエクレールが“何も知らない”って言ったんじゃない」 「……いいか、その質問を生きている、特に若い男には絶対にするな」 「どうして?」 「“じゃあ教えてやろう”となりかねない。そうなって傷つくのは君だ」 「どうして傷つくの?」  なんでここで俺は閨教育をしているんだろうか。  頼むから王宮で聞いてくれ。  そう思うも、クローディアの疑問は止まらないようだった。 「……恋にも結婚にも愛は必要だろう。……貴族の場合その限りではないこともあるが。愛の先に赤子が望まれるべきだ」 「愛がないと出来ないなら、じゃあ貴族の政略結婚はどうなるの?」 「すまん、死者の俺にはうまい回答が出来ん」 「じゃあエクレールが生きていたら教えてくれたの?」 「俺の言った“じゃあ教えてやろう”とは実力行使のことだ。口頭で答えるというものではない」 「?? じゃあ愛は関係ないの?」  きょとんとした顔で後ろを見上げて来る。  受け答えは少々幼いかもしれないし、面立ちも大人への過渡期。  だが造りは美しく、黙っていれば人形のように愛らしい。  支える腰は細く、夜会のドレスを見た限り絶賛成長中の胸元はこれから熟れて行く予感が十分にある。  危うい質問を繰り返す声に艶が含まれたらどう変化するのか、一瞬考えてしまった。    ああ、生前の俺はまだ若かったんだろうな。と思った。 「俺は今心底死体で良かったと思っている。どうしても気になるならジュレに聞いてくれ。俺には限界だ」  クローディアは前を向くと「そうする」と言ってくれた。  よかった。 「あ、じゃあキスは甘酸っぱいって本当?」  全くよくなかった。 「それはいつか是非自分で確かめてくれ……」  ここにいる限り相手は死体しかいないのだが、彼女は呑気に「甘酸っぱいってイチゴかな? ベリーかな?」等と言っている。  彼女のためにも一刻も早く戦争を終結させ、家族の元に帰って欲しかった。  そんな他愛もありすぎる話がやっと終わると、クローディアがにわかに身を固くした。  反射的にエクレールは彼女の肩ごと守るように抱き寄せ、剣に手をかける。
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