悪霊を送る

5/8
前へ
/150ページ
次へ
「この先よ。たくさんいる……分かる?」 「ああ、なんだこの掃き溜めにでも放り込まれたような感じは」 「あそこはよくないものが溜まりやすいの。シャンピーがいたのもこの辺り。じゃあここに祭壇を作るね」  彼女を馬から下ろしてやると、荷物の中から一枚の布を取り出した。それには何やら複雑な魔術の文様が描かれていて、クローディアは落ち葉の上にそれを広げた。 「これはジュレが作ってくれたの。これを祭壇代わりにして、ここに香を焚くの。ここだけ清浄なエリアになって、悪霊から身を守れるのよ。これを教えてもらわなかったら私、無知と好奇心だけで強い悪霊と分からず取り込まれていたかもしれない」  広げた布の上に皿を置くと、その上にハーブを置き火を点けた。  煙が立ち込め、安らぎに似た感覚に包まれる。 「襲ってくるのがいたらやっつけてもらって構わないけど、体に入られないように気を付けて。追い出されるならまだいいけど、一緒に取り込まれたら私あなたにお別れを言わないといけなくなるの」 「どうやって祓うんだ?」 「私は死霊術師とは違うから、魔術めいたことをするのはこの祭壇だけ。あとはね、喧嘩をするの!」 「喧嘩!?」 「話して説得できたら私の勝ち。行くわ!」  彼女は意を決すると、悪霊溜まりとなっている場所へ突き進んだ。 「あんたたち、悪いものになっちゃってないで、ちゃんと還りなさい!」  死者の身体でなければ聞き取れなかっただろう、悪霊の言葉が響く。 『ウグァア…………オンナ イキテル』 「悪い事しちゃだめ! ちゃんと冥界に行きなさい」 『コロス イキテル コロス オマエ コイ』 『グググ…………イキテル ズルイ』 『クルシイ クルシイ クルシイ クルシイ』 「そうね、あなたたちも辛かったのよね。何が苦しかったの?」 『ヌケナイ ヤ ヌケナイ オレ メダマ』 「ねえエクレール、近くに矢の刺さった死体ってないかな?」  エクレールはクローディアの傍から離れないまま周囲を見る。少し離れた所に、落ち葉に隠れるようにして埋まる白い何かが見えた。 「あれかもしれないな」 「取れる?」 「やってみよう」  エクレールが落ち葉の骨に向かう。  クローディアは悪霊溜まりから目を離さないまま、音でエクレールの様子を伺った。  どういう訳か普通なら隙あらば憑こうとしてくる悪霊たちまでその様子を見守っている。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加