死霊使いの姫君

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 このままでは国王である父にも、そして同盟国である母の出身国エメデュイアにも迷惑をかけてしまう。  王家の姫は呪われている。  死を纏い、国に死をもたらす。  この戦争が終わらないのも、休戦協定が破られたのも、全てはクローディア姫のせい。  神々の国と謳われるエメデュイアは、きっと隠し持った呪いをフィルディに押し付けたのだ。    クローディアは父と母、そして幼い弟という家族を愛していた。  そして父が治めるこの国のことも案じていた。  長きに渡る戦争により国民には暗い心が根付いてしまったのだろう。  民が不安を抱くのなら、私はここにいない方がいい。  十四歳の誕生日を迎えたクローディアは、エーノルメとの国境にある難攻不落にして死の森へと旅立つ。戦死者の魂がさ迷うと言われるその森で、死者たちとこっそり国を守ると言うのだ。  彼女がいなくなる表向きの理由は“同盟国にして神々の国と謳われるエメデュイアにて、巫女として祈りを捧げる”だった。  家族は止めたが彼女は聞かず、また多くの家臣も「それが最善でございます」と勧めた。  戦争状態のこの国に、敗戦を思わせる死を纏った者がいることに彼らは耐えられなかったのだ。 「娘一人守れずすまない」  旅立ちの日父はそう告げたが、娘はいつもの冬の日差しのように柔らかくふんわりした笑みを浮かべていた。  唇をかみしめる父、涙を流す母、あまりよく分かっていない弟に別れを告げると、たった一人のメイドを伴って出立した。 「娘をお願いよ、ジュレ」  王妃のその言葉に、フードのついたマントで頭の先からつま先までをきっちり覆ったメイドは深々と頭を垂れた。  そして誰もが寝静まる時間にこっそり城を出たクローディアは、月灯りに見送られ森の奥深くを目指した。  彼女が森に消えて一年もたてば、姫に関する黒い噂は消えた。目に見える所にいなくなったことで安心したのだろう。  家族からは、特に母からは「戻って来て」との手紙をもらったが、彼女は森を動くことはなかった。    どうして戻らないのかジュレに聞かれると、彼女はこう答えた。 「ここにいた方が、誰の目を気にすることなく死者のみんなと話せるの。その方が、この国をこっそり守るのには都合がいいでしょ?」
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