悪霊を送る

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  「クローディア!」  彼女にたかろうとする悪霊を薙ぎ払うと、剣の神聖な気配を感じた悪霊が一斉に飛び散った。逃げるのに間に合わなかった一体は散って消えたようだが、彼はその隙に足の蔓を切るとクローディアを抱え上げ祭壇に走る。  彼女があっけに取られている間に祭壇まで運ぶと、そこに座らせ肘から先のない左腕で顔に触れた。  恐怖に染まることはないようだが、びっくりしたように見上げる新緑の瞳に骸骨の自分が映っていた。 「大丈夫そうだな」 「……うん」  彼はクローディアが無事と判断すると、すぐさま悪霊の元へ取って返した。 「回りくどい……初めからこうすればよかったのだ!」  クローディアが後ろで小さく「あ……」と言った気がしたが、彼は本来両手で扱う大剣を片手で振り回し、残った悪霊を次々斬っては消滅させてしまった。剣の祝福は伊達ではなかったらしい。    静寂が戻ると、彼は例の癖で剣を振り、そのまま背中に収めた。 「クローディア、怪我はない……か」  振り返った先のクローディアは泣いていた。 「クローディア……?」  慌てて祭壇のクローディアの元に戻る。  清浄な空間に座り込む彼女は、悪霊たちが散ったあたりの空間を見て涙を流していた。 「もしや……斬ってはならなかったのか」 「ううん、危ない時は仕方ないよ。エクレールを咎めているわけじゃないの。ごめんね」  そう言う間も涙はとめどなく流れて行く。  一体彼女は何を哀しみ泣いているのだろうか。 「ちょっと待っててね」  クローディアはそう言うと立ち上がり、悪霊がいた辺りまでやって来ると膝を着いた。  祈りのような姿勢で頭を垂れ、何かの話を聞いているかのように時折頷いている。 「うん……うん、待っている恋人がいたのね。……そう。大丈夫、きっと強く生きてくれる。あなたは……うん……そうね、そうだと思うよ。あなたも? そうだね、きっとそう。私もそう信じてる。一緒に謝るよ。風の便りにきっと届くから…………ええ、さようなら」  一方的な彼女の言葉は、全て相手を肯定しているかのような内容だった。  何を話しているのか全てが分かるわけではないが、これはもしかしたら悪霊の残留思念でも感じ取っているのではないだろうか。  クローディアは相手を肯定するたびに流す涙を増やした。  彼女の足元にある落ち葉が、雨に降られたようにすっかり濡れてしまうと、ようやく彼女は顔を上げ立ち上がった。  かける言葉もなく、骨だけの騎士は寄り添った。  まだ涙に濡れた顔で彼を見上げてくる。
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