心に灯る

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心に灯る

   小屋に戻る途中、やたら時間がかかったことを心配したのか、途中までシャンピーが迎えに来てくれていた。  泣きはらしたクローディアの顔を見てシャンピーは何か察したのか、二人が無事なことを見るとそのまま黙って後ろから付いて来た。  帰宅後エクレールはジュレにやんわりとお小言を喰らい、砕けた自分の骨を見てもらう。  手の部分はクローディアがパズルと格闘することで、行方不明の小指の先以外はなんとか揃った。だが腕の骨は無理だと言われてしまった。  手首から先だけあっても中間が無ければどうしようもない。 「まあ自分の骨でなくてもいいのよ。どこかの死体を拝借してもいいし、木で作ってもいいわ」 「そんなことが出来るのか?」 「むしろなんで出来ないと思ったの?」 「え、じゃあ俺の肋骨は?」 「途中から折れているものはダメよ。やるなら関節から外さないと」  シャンピーが自分の首や馬の足を直したように、外れただけであればある程度寄せ集めただけで勝手に修復する。  だがあまりにもバラバラになり過ぎたり砕けてしまうと、それなりの修理を必要とするらしい。   「じゃあ明日はエクレールの腕探しをしましょう。今日はもう遅いし、私もなんだか疲れちゃった」 「あんなことがあったのだから疲れもするだろう」 「しっかりしてよね、護衛騎士様」  ジュレに釘を刺されてしまったエクレールはまた詫びると、その立派な骨の肩をすくめた。  寝支度を整えるクローディアとジュレを部屋に残し、護衛二人は外に出た。  夜クローディアが寝ている間は、シャンピーもエクレールも小屋の近くで好きなように過ごす。  死者の身体は眠りを必要としないが、長い夜はまるで夢でも見ているかのように生前の記憶が浮かび上がることがある。  このところシャンピーはそれが多いらしく、木の幹に身を預けたまま身じろぎ一つしない。  エクレールも彼とはまた別の木の幹に身体を預けると、木々に覆われた狭い空を見上げた。  今日は満月らしく、ちょうどまん丸の月が空と泉の中に浮いていた。   『一強の国が絶対的な支配をしてこその平和。この兵たちの死は決して無駄ではない、礎となったのだ!』  月明りに照らされる山のような戦死者の前でそう演説ぶったのは誰だったろうか。  強き国とは。  支配による平和とは。  一体誰のための平和で、誰を満たすための戦いなのだろう。  その山の中に自分がいたのか、見下ろす立場だったのか、それは思い出せなかった。  ギィっと扉が軋む音が聞こえ、泉の向こうに目をやった。  もう寝たはずのクローディアが、なぜか小屋の裏手へと裸足のまま駆けて行くのが見えた。  ジュレも出てきたが、クローディアを追いかけることなく月明りの下に使用人の服を着た白骨死体が佇むだけだった。
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