眼孔が見つめるもの

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 エーノルメ王がフィルディの侵略を再び開始しようとする頃。  明け方まで泣いていたクローディアは力尽きるようにしてエクレールの腕の中で眠った。    こんな出会い方をしなければ、彼女を幸福な温もりの中で抱きしめることが出来ていたのだろうか。  だが、それならそもそも出会うこともなかったのかもしれない。  無意味なことを考えてしまい、エクレールは彼女をベッドに横たえると外に出てきた。  いつそこに戻ったのか、シャンピーは元の木の幹に寄りかかり虚空を見つめていた。 「ヤツはどうしたんだ」 「死が近いのよ。本当の死が」  何をするでもなく、泉のほとりを見つめていたジュレが背中越しに答えた。 「今シャンピーにいなくなられるのはまずいのではないか? 俺はヤツにクローディアの事を頼まれたが、先にいなくなるのはどうやら俺のようだ。そうなれば誰が彼女を守る?」 「そろそろ生者の元に戻るのが健全なんじゃない?」 「それもそうだ。戻れる場所があるのだ。家族の元に戻った方が彼女も幸せだろう」  いくら王族とは言え、戦うことの出来ないクローディアが国防の一角を担っていた今までが異常なはずだ。  彼女にはもっと安全で平和なやり方があるだろう。  例えば、婚姻だって一つの手。  同盟国と結束を深めるも良し、敵国との交渉次第では婚姻によって解決することだってある。  強敵エーノルメの王子と……  彼女は王子を恐れていた。  そんなこと、国に平和がもたらされたとしても彼女の幸せを犠牲にすることになる。  恐らく自分はエーノルメの人間。  しかもかなり軍に近い所か、所属していたかもしれない。  クローディアの屈託のない笑顔が消えた日々など目撃してしまったら、記憶が無くても魂が反応して王子を殴り飛ばすか、彼女を攫ってしまうかもしれない。 「腕を探してくる」  自分の妄想はただの嫉妬だと気づき、考えるのを止めたエクレールはそう告げると森の奥に消えた。
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