眼孔が見つめるもの

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「シャンピー、しっかりなさい」 「……おう、なんだ」  エクレールが去ると、ジュレがぼんやりしているシャンピーに強く声をかけた。  今起きたような声でシャンピーがジュレの方を向いた。 「あなた、何か思い出したんでしょう」 「思い出したっつーか……誰かが俺のために泣いているんだ。俺はそいつのために戦っていた気がする」 「案外可愛い奥さんとかいたのかしら」 「やめろよ、未練残るだろ」 「残ってたら一晩中ぼーっとなんてしないわよ」 「そういやクローディアは?」 「一晩中泣いて、今は夢の中よ」 「なんだよ何があったんだよ」  シャンピーは立ち上がると、小屋の扉の方を見ながらジュレの傍までやって来た。  少し前は夜だった気がしたのに、いつの間に陽はこんなに高くなっていたんだろう。 「エクレールが生霊だったの」 「なんだそれ」 「あなたは死霊。彼は生霊。死んでないのよ。ちゃんと生きている身体があって、早くそこに還らないといけないの。ほんとに死んじゃうわ」 「で、なんでクローディアが泣く?」 「あなたがぼーっとしてる間に大人の階段を上ってしまったのよ」 「うわ、辛っ……」  たった一晩の急展開にシャンピーは驚くより、再会しようもない事実を不憫に思った。  死霊にしろ生霊にしろ、どうやったって生者の人生と交わりようがないと言うのに、無責任に恋に落としてるんじゃないとエクレールを責めたい気持ちになった。  まあ、そんな不毛なことしようと思ったわけではないだろうが。 「生霊故よ。あなたは時を歩んでいるようでもう動くことは無い。でも生霊は身体から離れているだけで、今を生きているの。今を生きている者同士、そう言う事だってあるかもしれないわ」 「同士、ってことは二人は互いに同じ気持ちなのか?」 「さあどうかしら。エクレールはそうでしょうね。でもクローディアはまだその入り口にいるだけかもしれない。今引き返すなら傷は浅いかもしれないけど……そんなの他人には分からないでしょ」 「だからってねえ。記憶は持ち越せないんだろ?」 「持ち越せるなら二人ともこんなに悩まないでしょ。むしろ喜んで生き返るんじゃない」 「だよなあ」  ジュレはクローディアが起きたら甘やかすためにお菓子を焼くと言って小屋に戻った。  彼女はなんやかんやクローディアに甘い。母親のように(たしな)めることもあれば、姉のように寄り添ったり。  シャンピーも薪でも割るかと斧を手に取り、それが軽く山になる頃にエクレールが戻った。
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