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「よう色男。あんた生霊だってな」
「そうらしい」
「記憶は持ち越せねぇ。探したいって思ったって探すことすら忘れるんだぞ。お前は綺麗さっぱり忘れるけど、クローディアはどうなんだろな」
「俺がここに残る選択をすればやがて俺は本当に死ぬ。そうすればクローディアの心には計り知れない後悔が残るだろう。彼女は俺がいなくなることを悲しむだろうが、死んだ後悔を抱えるよりマシだろう」
シャンピーは手に取った木を斧で叩き割ると、「どうだかな」と呟いた。
「俺はもうじき冥界に渡る。あの世から再会を祈っててやるよ」
「再会が必ずしも彼女の幸せに繋がるかは分からないがな」
そう言うとエクレールはどこからか拾ってきた腕の骨を手に小屋に戻った。
森で共に過ごせばとてもそうは思えないが、クローディアは王族。
エクレールが平民なら、例え再会できたとしてどうするのだろう。
シャンピーはまた木を叩き割ると、今度は「かもな」と呟いた。
その日の昼過ぎ、ようやくクローディアは目が覚めた。
ベッドの上で大きな欠伸をする様子はとても泣き疲れて眠ったようには見えない。
彼女は目覚めると最初に視界に入ったエクレールの姿を見てにっこりと笑い、テーブルの上の山のようなお菓子を見てこれ以上ないほど笑顔になった。
なるほど、残りの時間がどれだけあるかは分からないが、次に彼女が泣いた時には菓子を用意しようと密かに思う。
クローディアがエクレールの前でもお構いなしで着替え始めたので、彼の方が気を遣い出て行く。
しばらくしてジュレから声がかかったのでシャンピーと共に部屋に戻ると、クローディアはテーブルの上のお菓子に目を輝かせていた。
「見て! ちゃんと野菜を食べなくても好きなだけお菓子を食べていいんだって!」
「いっつもジュレと野菜を食べる食べないで揉めるんだよ。まあジュレが一枚上手だからデザートで釣られるんだけど」
「デザートは好き。食事が全部お菓子ならいいのに」
随分と子供じみたことを言うクローディアにお茶を用意したジュレは、「さあ好きなだけどうぞ」とお菓子を勧めた。
「特にこれは自信作なのよ」
一口サイズのプチフールの中からうっすらとオレンジがかった物を指差す。
それなら食べない訳にはいかないと、クローディアは真っ先にそれを手に取ると、パクっと一口で頬張った。
「んんー!」
「ちゃんと口の中がなくなってからお話しください」
「これ美味しい! この色は何? オレンジを使ったの?」
「柑橘の香りはしましたか」
「しないの」
クローディアはもう一つ手に取るとまた美味しそうに一口で食べた。
「人参でございます」
「んっ!?」
彼女は慌ててお茶で流し込むと、皿の上のケーキを眺めた。
「でも甘かったの。人参でもなんでもいいわ。美味しいから!」
それから順番に全種類のお菓子を一個ずつ摘まんでいくと、彼女はお菓子だけでお腹を膨らませたことに大満足した。
そしてお茶を飲み終え、唐突に「みんなでお出かけしたい」と言った。
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