眼孔が見つめるもの

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「少し行ったところにお花畑があるの。ジュレはいつもお留守番だし、みんなでお出かけって楽しいと思わない?」  ジュレが敷物を用意し、シャンピーの馬に乗る。  クローディアはエクレールの馬に乗せてもらうと、昼下がりの森をゆったりと馬を進めていった。 「エクレールの腕、寝てる間に直したの?」 「ああ、さっきちょうどいい死体がいてな。腕だけ拝借してきた」 「ちょっと新しい骨の方が細いかな? でもよかった。両手じゃないと、私馬に乗せてもらうのにちょっと怖いもの」 「片手でも落とさなかっただろう」 「落ちなければそれで良しってわけじゃないの。揺れると怖いの」  エクレールはクローディアを抱き込むように掴んでいた手綱から片手を離し、さきほど付けたばかりの左腕をそっと彼女の腹に回した。  前を向いたままのクローディアがその腕を掴むと、小さな声で「これなら安心なの」と言って笑った。  馬で進むこと五分で目的の花畑に到着した。  そこだけ開けていて陽の光が良く当たっている。  風に揺れる小さな花の群生を避けてシャンピーが敷物を広げてやったが、馬から下ろしてもらったクローディアはまずは花を摘み始めた。  ジュレが敷物の上に座り、それを眺める。  シャンピーは朽ち木を枕にごろんと横になり、エクレールは近くに幹に背を預け座った。  髑髏の面が三つ、光の中で花を摘んでは手元で編み込む生き生きとした乙女を見つめていた。    どれも黒い眼孔で、どんな思いでその姿を見守っているのかは読み取れない。  一つは従者のような、友のような気持ちで。  一つは母のような、姉のような気持ちで。  残った一つは、熱く、哀しく、焦がれ、切なく。  しばらく見守っていると、クローディアは「出来た!」と言って敷物の上にふわっと座り、みんなに見て欲しいのか自慢げに花冠を差し出した。  ジュレが「なかなか上手ね」と言い、シャンピーはさほど興味もないのか適当に頷いて眺めるだけ。  エクレールは立ち上がりクローディアの前に跪くとその花冠をそっと取り上げ、戴冠式でもするように恭しく彼女の飴色の髪に乗せてやった。 「似合う?」 「とても」  彼女は嬉しそうに笑い、それから皆の方を向いた。 「少しお話ししよう」  風が通り抜け、木々がさわさわと揺れる。  新緑の瞳は、少しだけ悲しい光を湛えているようで、これから彼女が話す内容を予感させた。
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