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エクレール隊
「あのね、いい機会だからね、みんなにお礼がいいたいの」
「お礼?」
ジュレが聞き返し、シャンピーは体を起こして聞く体制をとった。
エクレールはクローディアの傍に胡坐をかいて耳を傾けている。
「うん。だって、シャンピーももうすぐいなくなってしまう気がするし、エクレールも……ジュレは一番長くついて来てくれたけど、きちんとお礼を言ったことなかったし」
「シャンピーが冥界に渡る日が近い事、分かってたのね」
「うん。毎日ちょっとずつシャンピーの気配が薄くなっていくの。ちゃんと還れるのは凄く嬉しいことだけど、ずっと一緒にいたし悲しい気持ちもあるのが本音なの。別れってどんな形でも辛いのね」
「俺、クローディアに見つけてもらってよかったって思うよ。悪霊なんてなってたらそれこそ消滅するだけだったし、そうじゃないとしてもさ迷うってすげー怖いから。この身体貰って、生きてる時みたいに楽しくて。時々ヤバかったけどな。まあそれも含めて楽しかったよ」
「シャンピー、一緒にいてくれてありがとう。たくさん守ってもらったし、私が寂しくないようにたくさんお喋りもしてくれたし、大好きよ。あなたの未練が晴れてよかったの。最期はきちんと送るからね」
「照れるななんかこういうの。まあありがとな。俺もクローディアには幸せに生きてほしいって思うよ」
シャンピーは照れ隠しでもするように鼻先を擦ったが、そこには穴が開いているだけで空振りしてしまった。
そんな自分に苦笑しつつ、こうやって話している今もどこかで誰かが自分のために泣いている声が聞こえた。
「ジュレは三年も一緒にいてくれたのよね。最初にあなたに会えなかったら、私意味もわからないまま死霊と関わって、とっくに冥界に連れていかれていたかも」
「そうですよ。名を明かすのは魔術師界隈では非常に恐ろしい事。ましてや死者にそれを握らせてしまうなど……なんてお説教はいらないわね。あなた、健気で可愛くて、ついつい甘やかしちゃったわ。使用人てのもなかなか面白かったわ。まあ私はもう少し傍にいるわよ」
「うん。でも何も言わないで去るとかは無しね。そんなの悲しすぎるもん」
「流石にそこまで薄情じゃないわよ」
「ジュレ、今までありがとう。でももうちょっとだけよろしくね」
ジュレは優しく頷きながら「ええよろしくね」と言った。
最後にクローディアはエクレールの方を向いたが、言葉はすぐには出て来なかった。
「エクレールはまだ出会ったばかりなのに……」
言葉が続かない。
出会ったばかりで“もうお別れ”なのか、“恋しい”なのか。
淡く色付いた胸中をうまく言葉で表せず、午後の日差しは間もなく夕日へと姿を変えようとしていた。
誰も何も言わず、しばし森の音に聞き入る。
葉の擦れる音、草が揺れる音、時折馬の鼻息が聞こえ、鳥が飛び去って行った。
来るよ……
自然の音の中に、何か別のものが混ざった。
四人が一斉に顔を上げる。
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