エクレール隊

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 来るよ……  愚かな王にそそのかされて……  たくさん来るよ…… 「またエーノルメ兵が攻めて来た!?」  クローディアが立ち上がる。  シャンピーとエクレールはいち早く動き、それぞれの馬にジュレとクローディアを乗せた。 「クローディア、幽霊を使って偵察を。ジュレ、一人で馬に乗れるか?」 「当たり前よ」 「ではジュレは肉を纏い砦に知らせろ。シャンピー、まとまった死体を探せ」 「了解」  エクレールが手慣れた様子で指示を出し、シャンピーはジュレを伴って一度小屋を目指す。  ジュレはそこで外套と肉を纏うと、マロンに乗りすぐさま砦に飛ばした。  シャンピーは以前死体の兵を使った辺りにまだ残っていないか馬を飛ばす。  エクレールはクローディアの言う方に馬を飛ばし、さ迷う魂が溜まる場所までやって来た。 「みんなお願い、状況が知りたいの。エーノルメ兵がどれくらいでどこにいるか教えてくれない?」  そして「対価は……」と言いながら自分のポケットを探ると、常に持ち歩いている銀貨が数枚出てきた。 「これじゃ少ないかな。じゃあこれも少し持って行って」  急いだほうがいいと判断した彼女は、腕まくりをするとエクレールの手を取った。 「この爪先なら肌を切れるよね? 生き血は少量ですごい対価になるの。お願い、少しだけ切って」 「そんなこと――」 「緊急事態なの。ちょっと切ったって死なないんだから大丈夫!」  そういう問題ではないのだが、彼は仕方なく鋭い爪先をクローディアの柔肌に当て、短く引っかいた。  みるみる赤いものが溢れ、地面に吸い込まれていく。  と同時に協力する気のある魂がぶわっと周囲に集まった。 「わっ……こんなに沢山……じゃあお願いね、偵察部隊突撃―!」  偵察が突撃してはならないだろうと素で思いつつ、エクレールは彼女の袖を戻し上からぎゅっと押さえた。  数分と待たず、次々と偵察幽霊から報告が入る。 ――敵の数、騎兵およそ八百、歩兵およそ千二百、弓兵およそ千。 ――投石器を数基所持。 ――国境に陣を築いています。 ――森への斥候を三名確認。 ――敵は油を大量に所持している模様。  やたらと細かい報告が届く。生前に経験のある魂だったらしい。  その報告を聞き、エクレールが眉を――あればだが――潜めた。
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