死の森の少女

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 馬に乗せられたクローディアは、死者の囁きに耳を傾けた。  この森のあちこちからする気配は、もっと南、もっと東と告げている。   「最近侵入してくる数が多くない?」 「敵国は何か焦っているんでしょう。正面が意外と固いからって奇襲でもかけるためにこの森の攻略法を探しているんじゃないですかね」  骨の声は若い男のものだった。  戦局を見る目があるので兵士としては慣れているのかもしれない。  骨のどこから声がと思うが、入り込んだ魂は名前や記憶は持ち越せなくても経験や声音は引き継ぐらしかった。 「だめよ。そんなことになったらまた沢山人が死んじゃうの。こんな死体を増やすだけの戦争、なんでエーノルメは好きなのかしらね」 「各国の王にはそれぞれ主義主張があるからなあ。しかしこう数が多いと、俺一人ではクローディアの護衛もちょっと心配だな」 「確かにそうね。見張りも欲しいし……。素敵な死体があったらそうしてみるね」  一体どんな死体が“素敵”なのかは不明だが、彼女はそう言うと口を閉じた。そろそろ敵兵に出くわすはず。  この森にやって来て二年。彼女も死体に祝ってもらう誕生日をここで二回過ごした。家族との手紙は時折やり取りしているが、一番近い砦で「こっそり会おう」と言われても彼女は出て行かなかった。家族に再会したら、甘えてしまう気がした。  たまに悪霊に悩まされることもあるが、ジュレたちの手を借りてあの世に還している。  死は確かに穢れでもあった。  今更家族に会うことに彼女は躊躇し、表舞台へ姿を現わそうとはしない。たまに敵の動きを知らせたり武器や鎧を貰いに砦の主にお願いすることはあるが、夜にこっそり行って、こっそり帰って来る。  こうして死者と共に家族を、国を守ることに貢献できていれば満足だった。満足だと思おうとしていた。  彼女が生まれる前から続く隣国との諍いは、エーノルメ王国の王が代替わりしてからより帝国主義に傾倒し、彼女が十歳の時に大きな戦争をしている。  その後他国の介入により一時休戦とはなったものの、小国であるフィルディ王国は苦境を強いられることとなった。  十三歳の誕生日の日――骸骨騒動を起こしたあの日――休戦協定は破られ、一度小さな衝突をしている。  その後は膠着状態で、こうして侵入者が来る度に彼女は追い返して本格的な戦争が再開するのを先延ばしにしていた。 「待って……数が多くない? 斥候じゃなかったの?」
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