想い出

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 それからクローディアは花冠を作った。  エクレールも見よう見まねで小さな輪を作ってみたが、クローディアの腕に嵌めた瞬間バラバラと崩れ去ってしまった。  クローディアが作った花冠は見事に輪になったままで、彼女はそれを頭蓋骨に嵌めると、「ありがとう」と言った。 「楽しかったわ。素敵な思い出が出来たの。ありがとう」  そして花冠の嵌まる彼の額、ちょうど稲妻のようなヒビのある場所にそっと口づけを落とした。親愛の情か何かは分からない。多分感謝の気持ちだろう。  森に戻ると、城からの迎えがもう来ていた。    日没と同時に、祭壇の前で儀式が行われた。  ハーブを焚いた香りがたちこめる中、ジュレに教わった手順通りの儀式をすれば、一体の白骨死体がさらさらと崩れ去って行った。  それは最後にクローディアの手を取ると、「あなたの幸せを祈る」と告げて口づけを落とすふりをし、そのまま消えてしまった。  後にはあの長大な剣と花冠、そしてクローディアのすすり泣く声だけが残った。 「成功していれば、数日のうちに元の身体に戻るわ」  城への馬車の中、俯くクローディアにジュレはそう言った。 「元の身体に戻ったら少し肉体の調子が悪い日が続くかもしれないけど、それもすぐ回復して後は何も心配ない。幽体離脱の前と同じ生活が始まるでしょうね。ここでのことは忘れたまま」 「元気でいてくれたらいいな……どこの誰かは分からないけど、どこかでちゃんと元気に、幸せに暮らして欲しい。とってもいい人だったから」  ジュレは「そうね」と答え、あとは城まで二人とも無言だった。  ジュレにはまた使用人として部屋が一室与えられ、クローディアは花嫁教育を受け、父王は和平交渉に臨む日々があっという間に過ぎて行く。  交渉の結果、やはり政略結婚と言う形に収まり、和平条約を締結。  エルキュール王子は昏睡中にいつの間にか婚約者が決まり、国内の情勢も一変していることに驚いた。  そんなエルキュール王子は目覚めてからしばらく療養していたものの、体力が戻るとすぐにオロール王国との戦に駆り出されてしまった。  クローディアは一度も結婚相手の顔を見ないまま大急ぎで教育を詰め込まれ、もうすぐ十八歳を迎える頃、たった一人敵国へと嫁いでいった。
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