一人ぼっちの結婚式

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一人ぼっちの結婚式

 クローディアは嫁ぎ先エーノルメのエルキュール王子の居城にて、一人不安の毎日を送っていた。  エーノルメの教育や婚礼準備の関係で式より三か月前に彼女は敵国の婚約者として旅立った。  家族や大勢の家臣に見送られ、最後までジュレが付き添ってくれた。  彼女とは国境で別れることとなった。 『今まで楽しかったわ。使用人も悪くないわね。遠くからあなたを見守ってる。どこにいても幸せになるように……これはお祈りじゃないわ。魔女の呪いだから保証付きよ』 『ジュレも長い間いっぱいありがとう。ずっとずっと、友達だと思ってるの。私もジュレの幸せを祈ってる。私はただのお祈りだけど、心からそう思ってるのは保証するの』  ジュレは国境線で馬車を下りると、最後に『クローディアにクラリオンの守護を』といかにも魔女らしい謎めいたことを言って去って行った。  そこからは使用人すら付けられずたった一人。  しかも嫁ぎ先に婚約者の姿はまだない。  オロール王国との睨み合いはなかなか終わることなく、未だ王子が戻る気配はない。  下手に密書のやり取りを探られないために、手紙すら送り合えなかった。  たった一度だけエーノルメの商隊の中の一人が“会えずにすまない”と短い伝言を寄越し、それきりだった。  当然だが彼女にも侍女は付けられた。  もちろん他にも使用人はいる。  だが彼女らはあまりクローデアを良く思ってはいなかった。  エーノルメ王が流布した噂と、“敵国の姫”と言う事実がクローディアを見る目を濁らせていた。 「ねえドーテ、エルキュール様のこと、少し教えてくれない? 未だに何もやり取りが出来ないの。少しくらい知って、そして帰りをお迎えしたいわ」  クローディアは度々侍女のドーテにそうお願いした。  だがこの結婚の反対派の筆頭である父を持つ侍女は、冷たくあしらう。   「エルキュール殿下が未だ戻らないのは、やっぱり結婚をしたくないからよね」  使用人のそんな噂話が聞こえて来る。 「手紙の一通もないんですって。最初から相手にされてないのよ。当たり前よね、嫁と言いながら間者に決まってるわ」 「見て。誰にも相手にされないからって、書庫に籠ってる。エーノルメの情報を流すつもりよ」  いくらおっとりしたクローディアでも、そんな日々が続けば滅入って来る。  大好きなお菓子にもあまり手を付けなくなり、本来なら幸せの絶頂にあるような婚約期間中、彼女は痩せてしまった。  鏡に映る自分を見て「まるでオバケなの」と独り言ちては、寂しく笑った。  森で死者と過ごしていた時の方が、ずっと生き生きしていたとは皮肉なものだ。  そしていよいよ式の日が明日に迫る。  なんとか数日前に国境の敵軍を追い返すことに成功した王子は、今帰還している最中だと言う。  式の日を予定のままずらさなかった理由は、表向き宗教的な理由だったが、延期をしてフィルディに「娘を返せ」と言われないためだったようだ。
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