初夜

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初夜

 婚礼の儀と初夜の儀は実は一連の儀式となっている。  そしてその間に挟まる食事も特別なもので、儀式的な意味合いが大きい。  エルキュールとクローディアの二人は彼の城に到着後、夫婦が初めて同じ食物を分け合い糧を共にすると言う儀式を行った後、各々が身を清め、いよいよ初夜の儀を迎えることになる。  フィルディではここまで儀式が複雑ではなく、もっと簡略化されているし初夜に関しては「絶対」ではない。そこは夫婦に委ねられている。  エーノルメではそれがもっと厳格で、儀式の形としては古いものが残っていた。  もちろんこの話はクローディアもフィルディで学び、さらにエーノルメに来てからも説明を受けている。  初めて体をさらけ出す相手の顔も素性も知らないままで、当初閨の話を聞いた時には恐怖しかなかった。 『妻の務めとは即ち子供を授かることです。子供を授かるには殿方より子種を頂く他にありません。方法は――』 『いいですか。女の大切な部分を殿方に晒し、そこへ殿方の象徴を受け止めるのです。この時殿方は妻に魅力を感じなければ子種を授けてはくれません。ではどうするのかと言うと――』 『分からなくても怖くても、例え痛みがあろうと殿方を褒めたたえ、受け止めるのが妻です』  だがこれを乗り越えなければエーノルメではまともな妻として扱われない。  馬車では随分エルキュールがその辺りを考慮し、心をほぐしてくれた。  おかげで当初抱いた恐怖心は薄らいでいる。  閨の教師からは「拒絶してはならない」「例え無体な振舞に思えても、それが夫婦というもの」と苦痛と我慢の話しかされていなかったし、殿方の方から気を遣ってもらえるような話はどこにもなかったので、エルキュールの心遣いは嬉しかった。  薄衣一枚で寝所に案内されると、そこには見届け人の熟年夫婦と、既に寝台の上に座るエルキュールがいた。彼も薄衣一枚のようで、薄暗い部屋でもその体つきの逞しさが伺えた。  自分はこの三か月で痩せてしまい、貧相に見える。  胸や尻や足、場合によっては他の部分も殿方の気持ちを高めるためにとても重要と言われたが、自分の体が彼の気持ちを満たすことが出来るか急に心配になった。  寝台に上がり、エルキュールの隣に座ると、高位貴族の熟年夫婦が口を開いた。 「新郎エルキュール、新婦クローディアが正しく床を共にしたことを認める」 「わたくしたちは見届け人として証を確認しなければなりません。事が済んだらシーツを見せるように。ちゃんと務めを果たすのですよ、フィルディの姫よ」 「は、はい……」  夫人の方がクローディアに釘を刺し、二人は外へ出ると扉に鍵をかけた。  これで朝までこの寝所には二人だけになる。
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