初夜

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「でも、でも私今日までに一生懸命覚悟を決めたんです。本当はもっと怖くて、戦場にいるのと同じままのエルクだったらどうしようかと……でも、でも馬車で優しくしてくれたし、フィルディのためにも、私、頑張るの……頑張るから、ひ、一思いに……」 「ほら、やっぱり怖いだろう。俺は君を愛しているが、君はまだ同じ気持ちを抱いていないのは分かってる。だから俺は君が許していいと思えるまで待つ」 「でも絶対だって」 「抜け道くらい俺も知っている」  そう言うと脅す様に捕らえていた手を放し、ベッドの上にまた座ってしまった。  クローディアも意味が分からないまま身を起こす。 「抜け道?」 「ああ。だから今日はいい。とてつもなく惜しいが、俺は君を抱ければいいんじゃない。愛し合いたいんだ。今抱いたところで、君は痛みや恐怖を我慢し、俺にされるがままになるだけだろう」 「あの、私はそれだととても助かるけど、抜け道って? だって証を出さないと見届け人に……」  処女を貫いた証が敷物を汚し、見届け人はそれをもって“花嫁の体が清く、夫婦が間違いなく交わった”ことを証明する。  王家の血を絶やさない意味が強く、政略結婚等で気の進まない花嫁を逃がさないためでもある。  明日の朝、シーツを見届け人に渡すことでそれが完了するのだが。 「偽装する手がないこともないということだ。細かくは気にしなくていい。だから今日はゆっくり休め」 「本当にそんなことが……」 「大丈夫。でもそうだな……君の協力がゼロよりは、少しでもあると俺は助かる」 「私、本当に覚悟を決めてたの。でも、でもそうしなくていいって言うなら……あ、あの、これはずっとエルクを拒絶したいってことじゃなくてね、き、気持ちが追いつくまではってことでね」 「分かっている。君は国を、民を大事に想う優しい人だ。例え俺を愛していなくても義務は果たしてくれたろう。それに馬車であれほど俺に身を寄せてくれていたのだ。いつか真に愛を向けてくれると信じているし、そうなるよう俺も容赦はしない」 「あれは、心地良くて……エルクの胸、広くて安心するの……」 「それは良かった。いつでも来てくれ」 「協力って、私はどうしたらいいの?」  そう聞くと、エルキュールの瞳に少しばかり熱が宿った。  先ほど耳元に唇を寄せた時、彼女からは欲をくすぐられるいい香りがした。  あのまま「構わない」と言われたら本当にそうするつもりだった。彼女が義務でそう言っていたとしても、そこまで覚悟を決めているなら抱かない理由はない。そうなれば彼女が「早く欲しい」と言うくらい徹底的に甘やかして……と思っていたのだが。  今は“抜け道”のために、少しだけ彼女を感じさせて欲しい。  そんなものなくても十分なくらいは先ほどから痛くて仕方ない所があるが、それをなんとか我慢するのだ、少しくらいご褒美が欲しい。  彼は手を伸ばすと、そっと自分に顔を向けさせる。  そしてその唇を親指でなぞった。
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