初夜

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「キスは許されるか?」  クローディアは神殿での誓いのキスを思い出す。  生まれて初めて交わしたキスは、とても優しく、丁寧だった。  あの時点で既にエルキュールは彼女を大事に扱おうと決めてくれていたのだろう。  怯えないように、一瞬だけ交わされた熱。  あの時自分の鼓動は速まったのだ。寂寥感で埋められていた胸に、僅かに熱が宿ったのだ。  その理由は分かっている。 「いいなら、目を閉じてもらえるか?」  クローディアの目がすっと閉じられた。  ディア、と優しく名を呼ばれ、そして柔らかな唇が重ねられた。  それは神殿で交わした時より少しだけ強く押し付けられていたかもしれない。  でもそれ以上深めるようなことはせず、じっとそこでクローディアの小さな熱を味わっていた。  ごめんなさい、エルク。  私、あなたに誰かを重ねてる。  この口づけが、そうだったらいいのにって思ってる。  あなたは覚えていないかもしれないけど、私たちは会っているの。  数日しか一緒にいなかったけど、私はあなたの魂を覚えてる。  あの清浄な香りが、一瞬だけ私たちの魂を繋いでくれた。  あなたは、思い出さない?  でも自信はないの。  だってそんな奇跡って本当にある?  これが“そうだったらいいのに”っていう願望から来てるものだったとしたら、私はあなたに一生謝らなければならないわ。  初恋を重ねてごめんなさいって。  だから、今だけ。  次からちゃんと、あなたを見るから。  ごめんね、ごめんねエルク。  あなたはこんなに私を大事にしてくれるのに、ごめんね。  はぁ、と熱い吐息を漏らしてエルキュールが離れた。  もっと欲しいのか、そのまま足りないものを補うかのように額に、頬に、あちこちに口づけを落としていく。  彼がエクレールでもそうでなくても、間違いなく愛されているのは分かった。  欲望を剥き出しにせず、クローディアの気持ちを尊重してくれている。  きっと彼はこのまま思いを遂げたいはず。  それを必死に堪えてくれていた。 「ディア……愛らしい……君が好きだ……」    キスの雨を繰り返しながら、うわ言のように彼が言った。 「ん……エルク……」  いつの間にかそのキスは首元に落ち、クローディアの体に不思議な感覚を走らせた。  うわ言が繰り返され、その吐息すら肌をくすぐる。 「好きだ……ずっと好きだった……」 「エルク……? んっ……ねぇ、エルク」 「はぁ……すまない、欲しがってしまった。嫌じゃなかったか?」  首から顔を上げ、切ない吐息を漏らしながらそう言った。  彼は自分で少しおかしなことを言ったことに気づいていないのだろうか。
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