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侍女、リーユ
クローディアは室内より屋外の方が好きなのか、結婚後も引き続き学んでいるエーノルメに関する授業の合間、何かとバルコニーに出て外の空気に心を休めているようだった。
エルキュールは一日中クローディアの傍にいたいが、彼はずっと戦に駆り出されていた分関われなかった内政に、その存在感を現わさねばならない。
朝食の後から昼までは、執務室にこもる。時々抜け出してクローディアの様子を見に行くと、彼女は決まってバルコニーにいるのだ。
「ディア、君は外の方が好きなようだな」
「草木の香りがしてお外は気持ちいいの。鳥の鳴き声も時々聞こえて、木々だってお喋りしてるみたいでしょう」
クローディアが森での生活を思い出してそう答えると、エルキュールは面白そうに笑った。
「木々のお喋りか。そんな観点持ったこともなかった。ならば東屋で授業を受けてみるか?」
「本当? 嬉しいの!」
今日も妻は愛らしい。
彼は教師に断りを入れると嫌な顔をされたが、そしらぬ顔をして外に準備をさせた。
「準備の間少し散歩をするか」
そう誘われ、クローディアはエルキュールと手を絡ませると東屋の近くをのんびりと歩いた。
風が吹くと庭木が揺れ、さわさわと音がする。
「これがお喋りか?」
「ふふ。そう。なんて言ってるかな?」
「……“見ろ、城主が愛らしい新妻にキスをするぞ”」
「え……? あ……んっ……エルク……」
少し後ろでは使用人が教科書を運んでいると言うのに、彼は庭木の台詞を装うとそのまま実行に移した。
今日は啄むように何度も軽く重ねてくる。
最後に少しだけ長く重ねると、わざわざ音をさせて離れていった。
「今日はどんな味だ?」
「あの……今日は、ハチミツの桃じゃなくて、甘さ控えめのメレンゲクッキーなの……」
「甘さ控えめ?」
「だ、だって甘さ控えめだと、つい手が止まらなくなるから……」
「つまりそれはもっと欲しかったと言うことか?」
あまり深い口づけはまだ抵抗があるのではと、今日はその柔らかさを何度も確認させてもらったが、それでは彼女には物足りなかったらしい。
なんとも愛らしく、嬉しいことを言ってくれる。
「では追加で砂糖でもまぶしておくか」
彼はそう言うと、今度は薄く開いた彼女の唇を覆うようにしっとりと重ねた。
少しだけ舌先で唇をなぞると、彼女の口から「んふっ」と吐息が漏れた。
煽られる気がして、そのまま少しだけ吸い上げる。
彼女は果物や菓子に例えるが、こんなものエルキュールにとって一つしかない。甘い媚薬だ。
このまますぐにでも全てが欲しくなるのを抑え、そっと離した。
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