侍女、リーユ

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「はぁ……」 「甘かったか?」 「く、くらくらするの……」  どうやらクローディアにとっては効きすぎてしまったらしい。  本が積まれていく東屋で彼女を抱きしめたまま休ませると、使用人がちらちらとその様子を伺っていた。  密かに出回っている、王子が姫を溺愛しているかもしれないという噂に拍車がかかる。  やがて教師が来る頃になると、彼はクローディアに「頑張れよ」と告げ自分も執務に戻って行った。  そこではルブラードがなかなか戻らない王子に難しい顔をしていた。 「殿下、随分と長い一休みでございましたね」 「俺にはニ、三分程度にしか感じなかったが」 「その時間感覚ですと戦場では致命的なミスを起こしそうですが」 「悪い、ディアが愛らしくてな。それで?」 「先日の侍女の件でございます。ご紹介できそうな娘を一人見つけました」  早速人材が見つかったと聞いエルキュールは「早いな」と驚いた。 「あの日すぐ妹と連絡を取りましたところ、侯爵家に嫁ぐことになってからしばらく、妹の侍女として仕えていた平民の娘が気も利いて歳も近いと返事がございました」 「ほう……どんな繋がりだ?」 「妹は時折咳の発作に見舞われることがあったのですが、薬を頂いている医師の元で働いていた、同じ発作を持つ娘がいたそうで。接点を持つうちにどうやら仲が良くなったようです。まだ体の調子が良くないのなら、無理のない範囲で自分の所へ来ないか、と誘ったとか」 「もう体は大丈夫なのか?」 「薬さえ手元にあれば問題ないと申しておりました。妹もそうですので体調に配慮する必要はあるかと思いますが侍女をするには問題ないかと思われます」 「分かった。是非会ってみたい」 「そうおっしゃると思い本日の午後より面談の席を設けました」 「やはり仕事が早いな」  エルキュールが苦笑すると、ルブラードはその反応に心の中で満足した後急に表情を改めた。 「ところで殿下」 「どうした?」 「城内でやや不審な動きがあるようです。はっきりと掴めてはいないのですが、どうかお気を付けくださいませ」 「それはクローディアにも関することか?」  ルブラードは頷く。  国内の有力貴族には支配するはずだったフィルディと結びつくことを良しとしない勢力がある。その逆にクローディアを飼いならして内側から崩せないかと画策する者もいる。  どちらにしろクローディアには不利益なことしかない。  エルキュールが婚約後もっと内政に関わることが出来ればそれらの牽制も出来たかもしれないのだが。 「俺はずっと戦だったろう? 今思えば父上もわざと戦地へと追いやった気がする。世間の情勢から切り離そうとしていたのではないかと」  父王はフィルディから脱走以降、軍事への積極性は薄れた代わりに支離滅裂な部分が多くなった。  恐らく不眠が大きな理由だろうが、内政が滞りがちになる割にエルキュールを遠ざけようとするのだ。  まずい部分でも隠すかのように、息子に必要以上に介入させない。  そのくせ臣下に任せきりで放置気味なところがある。  監督の行き届かない臣下は好きなように政治を動かすこともあり、エルキュールは戦地から度々ルブラードと連絡を取り合い把握に努めた。    それでも頻繁にやり取りすることは出来ず、自分の目で直接見ることも叶わない。  国内情勢の声は、エルキュールには届きにくくなっていた。
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