侍女、リーユ

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「殿下のお立場が強くなることを恐れてのことと思います」 「俺は簒奪者(さんだつしゃ)になりたいわけじゃない。国と民の平和を築くより良い方法を探したいだけだ」 「その方法が殿下と陛下では著しく違うので警戒するのでしょう。その思惑を引き継いでいる支持者は多くおります」 「軍部は意外とそうでもないな?」 「はい。不可能な作戦を無理強いされてきた軍より、私利私欲を肥やすことに労を惜しまない高級官僚に多いですね。それと国庫管理の苦境に立たされている官僚はどちらかと言うと殿下の方針を支持しております」 「分かった。クローディアにはもう少し俺の息が直接かかった者で警護を付けよう。俺が四六時中傍にいてやることも出来ぬしな」  そこでエルキュールは溜息をつくと、さっきまで一緒にいた愛妻の元にもう行きたくなってしまった。  使用人だけでなく教師の様子もあまり芳しくないと聞く。  どんな授業を受けているのか気になって仕方ない。  それにこんな話をした今、付けている護衛が本当に信用できるかも気になって来た。  何により顔が見たいし、抱きしめたいし、口づけもしたい。ずっと膝に抱えたまま執務が出来ればいいのに。 「何をそわそわなさっているのでしょうか」 「クローディアは大丈夫だろうか。彼女に会いたい」 「三十分前にお会いしたばかりです。今は仕事も立て込んでいませんので、どうぞ様子を見て来てください。また署名を間違われても困りますので。ただし二十分でお戻りください。面談もございますので」 「そ、そうか。では少し様子を見て来る。何かあったら呼べ」  そう言うとエルキュールはそそくさと部屋を出て行ってしまった。  ルブラードはそれに呆れたように溜息をつくと、本当は山になっている書類に目を通し始めた。    廊下を歩きながら窓の外を見る。三十分前はあれほど晴れていたのに、どうも雲行きが怪しい。雨が降る前に引き上げ、どうやら書庫にいるらしくそちらへ向かう。  返って慌ただしい移動になってしまったかもしれない。とは言え天気の急転までは致し方ない。  部屋をそっと伺うと、教師は席を外していた。  どうやら記述テストの間一人で取り組んでいたらしく、あと十五分ほどで戻ると言う。
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