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「ディア、調子はどうだ?」
「エルク。お仕事はもういいの?」
「ああ、今はあまり立て込んでいないらしい」
彼女の座るデスクまでやって来ると、当たり前のように頬へ口づけをする。
クローディアはぴくっと体を揺らしたものの、そのまま至近距離で見つめているエルキュールの頬にお返しとばかりに掠めるようにキスをした。
エルキュールの顔が嬉しそうな表情を浮かべ、クローディアもそれに応えるように微笑んだ。
「地理のテストだったの。私海は遠くから見たくらいしかなくて。エーノルメは大きな港があるでしょう? どんなところかなって気になっちゃったの」
彼女が書きかけのテストの傍には、エーノルメの海に面した南方の地図が開かれていた。
「フィルディにも港はあるけど、もっと小さいの。隣り合わせなのに、海が浅くて岩礁も多いから、沿岸漁業くらいしか出来ないって。エーノルメは凄いのね。他の国の船も沢山来るのね」
「ああ。商船だけでなく軍船も多いがな。港は城下町より栄えているかもしれん。いつか君も連れて行こう」
「……エルクも、乗ったこと、あるの……?」
例えば、三本マストの船とか。
「ああ、海軍の視察の時にな。三本マストの船で、国内では大きい方だ。まあエーノルメの海軍は申し訳程度の力しかないかもしれんが」
「……一緒に海豚も泳ぐのよ、ね?」
「ああ、よく知っているな。海豚は見たことあるか?」
「……ううん。よく知らないの。でもお魚と違って、大きくて、愛嬌があるって」
「そうだ、群れで船と競争でもするかのように一緒に泳ぐ。あれはなかなか可愛いものがあるな」
「そう、なのね……私もいつか見てみたい……」
「海辺の別荘もいつか連れていこう」
「……うん」
エルキュールは妻が喜びそうなことを見つけられて嬉しそうだった。
クローディアもまだ見ぬ海に思いを馳せるかのように、地図に見入っている。
本当はそうやって動揺した顔を見られないようにしているだけだったが、後ろから覗き込んでいるエルキュールには分からなかった。
エルク、私、同じようなお話を、あなたとしたことあるかもしれないの。
三本マストの船は一般的?
船と一緒に海豚が泳ぐのは、よくある現象?
エルク、私あなたのこと好きよ。
私にとても親身になってくれて、いっぱい愛情表現してくれて。
ベッドでも無体なことはしないし、触れ合う手は優しいし。
広い胸の中も逞しい腕も好き。優しく低い声で、お話をたくさんしてくれるのも好き。
敵国の姫なのに、あなただけは私を全肯定してくれる。
だからね、エルク、私にちゃんと、あなたを好きって分からせて。
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