侍女、リーユ

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「エルク……」 「どうした?」 「……キス、して欲しいな」 「……どうした?」  同じ質問を二回する。  だがクローディアは本を置くと急に立ち上がり、後ろにいたエルキュールの胸に縋りついた。 「エルク、キスして。ぎゅって抱いて、いっぱいキスして」  いつ教師が戻ってもおかしくない書庫。  目の届く所に侍女と衛兵も控えている。  それでも構わず、愛しい妻が急に甘えて来た。  いや、これは甘えとは違う。  何か焦燥感に駆られるようで、切羽詰まった想いを感じる。  エルキュールは使用人と兵士に目で退室を促すと、彼女を抱え近くのソファに腰を降ろした。 「何かあったのか?」 「ううん、何もないの。急にエルクにキスして欲しくなっただけ……さっきみたいな、お砂糖のかかったキス……」 「本当にそれだけなら俺は嬉しい。いくらでもしよう。だが本当に? 何もない?」 「ないの。ないから。ね、エルク……」  ねだるようにクローディアから唇が重ねられた。  何があったにせよ、そんなに欲しいのならまずはそれを満たしてやりたい。  詳細なんて後で聞けばいい。今彼女はとにかく自分の唇を欲してくれている。  エルキュールは膝に愛妻を抱えたまま後頭部を押さえると、望むままに口づけを与えた。  先程のような重ねるだけのキスではない。  緩んだ彼女の唇の隙間から舌をねじ込み、小さな舌先に触れると逃さぬよう吸い上げた。   「あ……ふっ……ん、んふ……」 「ディア……」  一度舌を解放すると急に込み上げた切なさに名を呼び、今度は唇を吸い味わう。  彼女は吐息を漏らしながらも彼の舌を必死に受け入れ、エルキュールの唇を小さく噛んだ。口内で舌が絡み合い、唾液も一緒になって絡んでいく。  彼はずっとしたかった深い口づけに夢中になり、クローディアも体中が熱くなっていくのを感じた。    エルク、エルクのキス、好き……  頭がぼんやりして、何も考えなくていいの。    二人は水音をさせて互いの唇を貪り合う。  膝に抱えたクローディアの臀部に自分の股間を押し付けそうになった時、エルキュールはこれ以上は駄目だとやっと顔を離した。 「はぁ……えるく……」 「は……ディア……随分積極的だな」 「エルクを好きって知りたかったの」 「もう分かったか?」 「もっと知りたいの……」 「ディア……その愛らしさは反則だ」  再び唇を寄せ合い、水音がまた静かな書庫に響く。  時折クローディアの小さな声と吐息が混ざり、さらに時々エルキュールの吐息がそこに重なった。 「ディア、愛している……」 「エルク、好き……」  おでこを合わせたまま見つめ合う。  無限に合わせていたくなる唇に再度吸い寄せられそうになった時、ノックの音がした。
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