侍女、リーユ

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「ディア、君の新しい侍女のリーユだ」  お茶の時間、今はもうすっかりいつも通りの愛らしいクローディアに早速リーユを紹介する。  リーユは平民だがルブラードの妹のところで教育を受けていただけあって、言わなければそうとは分からない。  話に聞いていた病弱とは思えないようなはつらつとした娘で、受け答えも身分差著しいエルキュール相手にはきはきと受け答えをし、好感の持てる人物だった。  若い割に苦労をしてきたのか、クローディアの一つ上の年齢であると言うのに随分と落ち着いて見えた。 「初めまして奥様。リーユ・ローレと申します。旦那様にはお話し相手になって欲しいとお伺いいたしましたが、どうぞ他にもなんなりとお申し付け下さいませ」  クローディアは椅子から立ち上がり、リーユの傍まで行くとその手を取った。 「来てくれてありがとう。あの、私も嫁いだばかりでここのことはよく分からないの。だから一緒に覚えましょう」 「お気遣いありがとうございます奥様」 「あの、も、もう少しお友達みたいにお話するのはだめかしら?」  リーユではなくエルキュールの方を見てそう尋ねる。  彼女はフィルディでは使用人との距離も近かったし、森での使用人……ジュレや本名はジルのシャンピーだってそうだ。ジュレはあくまで「使用人ごっこ」の口調を崩さなかったが、それも含めて彼女たちの遊びのようなものでもあった。  寂しくもあり楽しくもあったあの森の時のように、リーユにももっと近い距離で接して欲しかった。    ここへ来た時、彼女は同じように侍女や周囲の使用人にそうお願いしようかと思ったが、最初から態度の固い彼女たちにとても言い出せる雰囲気ではなかった。  敵国に来るのだからある程度は覚悟していたとは言え、無視をされる日々は人懐っこいクローディアには辛かった。 「君がそう望むなら。ただし流石に外へ出た時には控えてもらう。それでもいいか?」 「うん! ねえリーユ、お願い、侍女みたいなこともしてもらうけど、お友達みたいにお話したいの」 「奥様がそれがよろしいのでしたら、そうさせて頂きます。……ですが私は平民でしかも下町の出身です。本当に崩してしまうと周囲の方々に“下品”と揶揄されかねませんので、半分くらいお友達みたいにさせていただきますね」 「ふふっ。きちんと考えてくれてありがとう。あ、ねえ今日はまだお仕事じゃないわよね? じゃあじゃあ、一緒にお茶をしましょ? エルクも一緒に……いいかしら?」 「ああ、もちろん」  エルクと過ごすお茶の時間も楽しみだが、こうして友達と過ごすお茶の時間は久々で、クローディアは随分と話が弾んだようだった。   「リーユはあまり体が丈夫ではないって聞いたの。お薬があれば大丈夫とも聞いたけど、もしお仕事中に気分が悪くなったら早く言ってね。休みたいときもそうよ」 「はい。お気遣いありがとうございます。でも最近は本当に調子が良くて。お薬を切らさなければまず心配ありません。思いっきり走ったりすることは苦手ですけど、日々のお世話でしたらお任せください」 「大丈夫、私も思い切り走るのは苦手だわ。すぐ足が絡まってしまうの。転ぶ方が得意かもしれないわ」 「それは困る。その愛らしい顔に傷でもついたらどうする。ディアは絶対に走るな。絶対だ」  大真面目にそう言うエルキュールを見て、リーユは下を向いてくすくすと笑った。  無骨で勇猛な我が国の王子は、随分と隣国の姫を愛しているらしかった。
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