侍女、ドーテ

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「だめっ!」 「きゃあっ!?」  ガシャンと音を立てて、茶器が床に飛び散った。  熱いお茶がクローディアのガウンの膝を濡らし、彼女は慌ててソファから立つと、足に張り付く布を咄嗟に持ち上げた。  冷ましていたお陰で火傷をする温度ではないが、それでも湯浴みより高い温度でびっくりした。 「何事だ!?」 「エルク……」  ルブラードとの話が早めに終わり、寝支度を整えていたエルキュールが部屋に飛び込んで来た。  彼が見たのは、膝を濡らし驚いた表情の妻と、床に割れた茶器、そして様子のおかしいドーテ。  エルキュールの中ではすぐに繋がった。  ドーテがついに実力行使に出た。 「貴様まさかクローディアに毒を!?」 「申し訳ございません! 申し訳ございません!」 「何……なんで、どうしてそこまで?」 「申し訳ございません! 新しい侍女が来ると聞き、毒殺するなら今しかないと思ってしまいました!」 「貴様……許さんぞ……。クローディア、飲んではいないのか?」 「の、飲もうとしたら、ドーテが……」 「何故自分で仕込んでおいてそんなことを」  エルキュールはまずガウンをめくり、クローディアの足に火傷がないことを確認した。  それからすぐに着替えさせてやると、床に伏せたままのドーテの前に仁王立ちになる。 「貴様が父オートリーから何か言われていたであろうことくらいは想像つく。今までクローディアにただ冷たいと言うだけで何もしてこなかったから泳がせてはいたものの……そもそもその態度自体が俺には許しがたい行為だがな」 「申し訳ございませんっ」 「洗いざらい話せ。オートリーに何を言われここへ来た。クローディアを殺すのが最終目標だったのか!?」 「ち、父は……父はこの婚儀に反対しておりました」 「そんなこと分かっている」 「反対の理由は――」 「私利私欲だろう。表向きは父に忠誠を誓っているが、裏では自分の地位を高めることしか考えてない」 「……さようでございます」 「加えて俺が言う事を聞かないものだから政治に関与することを嫌っている。そこは父上と馬が合うようだがな」 「……おっしゃる通りでございます」 「それとクローディアの毒殺はどう繋がる」 「……本当は、毒殺するつもりではございませんでした。それはもっと後の、最終手段のつもりでございました。本当はクローディア様が国にお帰りになるか、正妻のままでも殿下のお心と離れていれば、それでよかったのでございます……」 「俺がクローディアに夢中になったのが計算違いだったようだな」  コクっと、俯いたままのドーテが頷いた。
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